モスキート艦隊という名前を聞いて、小さくて弱いと思ったら大間違いだった。イラン革命防衛隊(IRGC)が運用するこの艦隊、時速185キロを超える高速艇を大量に展開しているとニューヨーク・タイムズが報じた。これが世界の原油流通を揺るがす存在として、いま改めて注目を集めている。

時速185km、「蚊の大群」戦術とは何か

モスキート艦隊の発想はシンプルで、だからこそ厄介らしい。通常の軍艦は数でも装備でも米海軍にはかなわない。だから正面から戦わない。高速の小型艇を何十隻も同時に向かわせ、防衛網をパンクさせる。専門家が「飽和攻撃」と呼ぶやり方で、ミサイル迎撃システムも対処できる目標数には上限がある。

この艦隊がひときわ危険視される理由の一つは、イラン正規海軍とは完全に切り離された独立組織だという点にある。指揮系統が別なので、政府が「抑止」しようとしても、革命防衛隊が動き始めたら止まらない可能性がある。

「イラン正規海軍とは別組織で、時速185キロ以上で航行するボートを擁するこの艦隊を、米国の退役高官は『破壊的戦力』と呼んでいます。」(ニューヨーク・タイムズ報道より)

「破壊的戦力」という言葉を使ったのは、米国の退役高官だ。現役ではなく退役という点も引っかかる。つまりこれは公式見解の範囲外で、本音に近い評価として受け取っていい。

ホルムズ海峡が1日で止まると何が起きるか

ホルムズ海峡は、幅が最も狭いところで約33キロ。世界の原油輸送量の約2割がここを通る。サウジアラビア、クウェート、イラク、UAEから出荷される原油の大半がこのルートを使う。

モスキート艦隊がここに展開し、タンカーの航行を妨害・遮断すれば、原油市場への影響は即日で出てくる可能性がある。過去にイランがホルムズ封鎖をちらつかせるたびに原油先物が急騰してきた経緯を見れば、実際に封鎖が起きたときの振れ幅は想像を超えるかもしれない。

ガソリン代、物流コスト、電気代——生活の中のあらゆる「値段」がここにつながっている。中東の軍事ニュースが遠い話に見えて、実は家計に直撃しうる話だと気づいたとき、この問題の重さが変わってくる。

この先どうなる

米国とイランの核交渉が続く一方で、IRGC海軍の増強は止まっていない。外交チャンネルと軍事チャンネルが別々に動いている状況は、どちらかが暴走したとき即座に衝突へ転じるリスクをはらんでいる。

ホルムズ海峡封鎖リスクが現実のものになるかどうかは、今後の核合意の行方と、革命防衛隊への政治的な制御が機能するかどうかにかかっている。楽観的なシナリオもあるが、モスキート艦隊の増強スピードを見る限り、備えを怠る理由は見当たらない。