イラン核合意をめぐり、米国とイランの言い分が真っ二つに割れた。トランプ大統領が「合意は間近だ」と宣言した直後、テヘランは「濃縮ウランの放棄に同意した」とする米側の主張を真っ向から否定。7週間に及ぶ交渉の最終局面で、双方が「合意の内容」について真逆の認識を持っているとすれば、話がおかしい。

「間近」と「否定」——ワシントンとテヘランで何が食い違っているのか

米イラン交渉でここが引っかかった。トランプ政権側が対外的に「イランは濃縮ウランの放棄に同意した」と発信しているのに対し、イラン側は即座にこれを否定している。単なる交渉術の一環なのか、それとも根本的な認識のズレなのか、現時点では判断が難しいらしい。

濃縮ウランは核兵器製造の一歩手前に位置する、イランにとっての「最後の交渉カード」ともいえる資産。これを手放すことは、核抑止力の事実上の放棄を意味する。イランの保守強硬派がこれを受け入れるとは考えにくく、最高指導者ハメネイ師が署名できる政治的余地はそもそも極めて狭かった。

テヘランは、濃縮ウランの放棄に同意したとする米側の主張に対し、反発している。(Bloomberg)

Bloombergがこの一文を報じたタイミングが象徴的で、トランプの「間近」発言とほぼ同時に否定情報が流れてきた。楽観的な発表と、それを打ち消す反応が24時間以内に重なる——これは2015年のJCPOA交渉でも見られたパターンに近い。

イランが「放棄できない」理由——国内政治という見えない壁

米イラン交渉を読む上で見落とせないのが、イラン国内の政治力学だ。現在のペゼシュキアン政権は穏健派寄りとされるが、核政策に関しては保守強硬派が依然として強い発言権を持っている。濃縮ウランの放棄に踏み切れば、国内では「屈辱的な敗北」として政権の足元を揺るがしかねない。

一方、トランプ政権にとっても「合意を取りつけた」という外交的成果は選挙後の支持固めに使いたいはず。双方に「合意が欲しい動機」はあるとしても、「どんな合意か」でこれだけの乖離があるとすれば、期待だけが先走っている状態ではないか、という見方もできる。

エネルギー市場も静観モードに入っており、原油価格への影響は現時点では限定的だった。ただし交渉が決裂に向かった場合は話が変わる。ホルムズ海峡を抱えるこの地域の緊張が再燃すれば、市場の読み直しは急速に進む。

この先どうなる

最も現実的なシナリオは、合意「完全成立」でも「完全決裂」でもなく、曖昧な中間状態の長期化だろう。双方が国内向けに「交渉継続中」と説明しながら、実質的な進展がない状況が続く可能性は低くない。

焦点は次のオマーンでの協議、あるいは国連を介した間接交渉の行方に移りそうだ。濃縮ウランの扱いについて両者が「同じ文書を読んでいる」状態にたどり着けるかどうか——そこが合意の最初の関門になる。交渉は「間近」というより、まだ「入口」にいる、というのが正直な見立てだった。