リスクオンへの転換が、ここまで一気に進むとは思っていなかった。中東停戦の兆しが伝わった直後、世界のクレジット市場ではジャンク債や新興国債券への資金流入が急加速し、戦争リスクを織り込んでいたプレミアムが急速に剥落し始めている。ブルームバーグが報じたトレーダーたちの動きを追ってみると、その「前のめり感」がかなり気になった。
ジャンク債に3日で資金殺到——剥落した「戦争プレミアム」の正体
停戦報道が流れるや否や、リスク資産への乗り換えが始まった。注目されたのはクレジット市場中東停戦の恩恵を最も直接的に受けたセグメントで、格付けの低いハイイールド債(いわゆるジャンク債)と、中東情勢に敏感な新興国債券への資金流入が一気に膨らんだ。
「中東の停戦がオプティミズムを高める中、クレジット投資家はよりリスクの高い債券へのシフトを進めており、トレーダーたちは戦争を過去のものとしてリスクを引き上げる準備が整っている」(Bloomberg)
このジャンク債資金流入の速さ、冷静に見ると少し引っかかる。戦争プレミアムが「剥落した」というより、「剥ぎ取られた」に近い。ホルムズ海峡の通航リスクはまだ消えていないし、イランの核・ミサイル能力がそのまま温存されているのは変わっていないのに、だ。
「停戦」が最も危うい瞬間——過去の相場が教えること
歴史をさかのぼると、似たようなパターンが何度か出てくる。2020年1月のイラン・ソレイマニ司令官暗殺直後、市場は数日で「有事」を織り込み、その後すぐに反転した。だが翌月、別のリスクが顔を出した。楽観が最高潮に達した瞬間というのは、次のリスクが最も見落とされやすいタイミングでもあったりする。
今回の停戦協議も、仮に正式合意に至ったとしても、イランの地域への影響力やフーシ派などの代理勢力の動向は切り離して考える必要がある。原油市場が比較的落ち着いているのは好材料だが、それがそのままクレジットリスクの消滅を意味するわけではない。中東停戦クレジット市場の相関は、ポジティブサプライズには敏感でも、次のネガティブサプライズには遅れがちだ。
この先どうなる
当面の焦点は、停戦合意が「署名レベル」に達するかどうか。そこをクリアできれば、ジャンク債資金流入はもう一段加速し、スプレッドの圧縮がさらに進む可能性がある。一方で、ホルムズ海峡の出口交渉やイランの核プログラムに関する具体的な合意がないまま市場だけが走るようだと、次の地政学ショックで跳ね返りが大きくなるリスクがあるといえる。リスクオンは続くかもしれないが、その足元が思ったより固くないことは頭に入れておいて損はないはず。