ハンク・ポールソンが、静かに、しかしはっきりと警告を発した。イラン戦争の最大リスクは砲弾でも制裁でもなく、グローバルな連鎖ショックが米国の金融市場を直撃するシナリオだ、と。2008年のリーマン・ショック時に財務長官として崩壊寸前の金融システムを前線で支えた人物がこう言うなら、単なる悲観論とは受け取りにくい。
ホルムズ海峡が「詰まる」と何が起きるか
世界の原油輸送量の約2割がホルムズ海峡を通過する。ここが封鎖、あるいは部分的に機能不全になれば、エネルギー価格は短期間で急騰する。ただポールソンが問題視したのは、原油価格そのものより「連鎖」の速さらしい。エネルギーコストが跳ね上がれば企業収益を直撃し、インフレ再燃への警戒からFRBの利下げシナリオが崩れ、米国株式市場にダブルパンチが来る、というルートだ。現時点でも、ホルムズ海峡周辺の緊張はエネルギー市場に微妙なプレッシャーをかけ続けている。気づいたら「すでに始まっていた」になりかねない。
「元財務長官ハンク・ポールソンは、イラン戦争による最大の経済リスクは、グローバルなショックが米国市場に波及することにあると警告した。」(Bloomberg)
ポールソンの見立てでは、市場参加者が過小評価しているのは「地政学リスクが金融システムに転化するスピード」だという。リーマン・ショックのときも、最初は「サブプライムだけの話」と思われていた。あのパターンと重ねているとしたら、かなり重い発言だと思う。
イラン戦争より先に「銅不足」が来るかもしれない
ポールソンはもう一つ、見落とされがちな論点を挙げた。銅の供給不足だ。脱炭素・AI・電力インフラへの投資が世界規模で加速する中、銅の需要は急増している。EVのモーターや充電設備、太陽光・風力の送電網、データセンターの配線——いずれも大量の銅を必要とする。一方で米国内の銅生産能力はその需要増に全く追いついておらず、供給ギャップは静かに、しかし着実に拡大中。イラン戦争リスクが供給ルートの混乱を引き起こした場合、この銅不足がさらに加速するという構図もある。エネルギーと資源、二つの脆弱性が同時に顕在化しつつあるってことだ。
この先どうなる
イランをめぐる外交交渉の行方次第で、シナリオは大きく分岐する。交渉が妥結すれば市場の緊張は緩むが、決裂あるいは軍事行動へ発展すれば、ポールソンが描くグローバル連鎖ショックが現実味を帯びる。銅については、地政学リスクの有無にかかわらず需給ギャップの解消には数年単位がかかるとみられており、価格上昇圧力は当面続く可能性が高い。ポールソン発言が「予言」にならないことを願いつつ、エネルギーと資源の両面で何かが変わる転換点が近づいているのは確かなようだ。