ホルムズ海峡を目前に、石油タンカーが引き返し始めている。ギリシャ籍とインド籍の複数のタンカーがペルシャ湾内でUターンを余儀なくされたと、ブルームバーグが報じた。イランは海峡の開放を約束している——ただし、それを額面通りに受け取った船主は、今のところほとんどいないらしい。

「開いている」と「通れる」はまったく別の話だった

世界の石油輸送量のおよそ20%が通過するホルムズ海峡。ここが機能不全になれば、原油価格への影響は即座かつ広範囲に及ぶ。それは市場参加者全員が知っている。

にもかかわらず、船主も石油トレーダーも動けずにいる。なぜか。現場を縛っているのは三つの壁だ。

まずトランプ政権によるイランへの封鎖圧力。次に、停戦合意後も安定していないイランの政治情勢。そして三つ目が、保険会社によるリスク判定の引き上げ。戦争リスクが高いと判断された海域では、保険料が跳ね上がるか、そもそも引受不能になる。タンカーが動けないのは「怖いから」だけでなく、「採算が合わないから」でもある。

「複数の石油タンカーがホルムズ海峡を通過しようとした後、ペルシャ湾内でUターンした。船主や石油トレーダーたちは、イランが海峡を開放し続けるという約束を守るかどうかを見極めようとしており、混乱状態が続いている。」(Bloomberg)

言葉と現実の間にあるこのギャップ——ここが今回の報道で一番引っかかった部分だ。「開放を約束した」という声明は出た。でも保険会社は動かない。保険が動かなければ船主も動かない。船主が動かなければ原油は届かない。声明一枚でサプライチェーンは動かない、ということを今まさに実証している。

ギリシャ・インド籍タンカーが引き返した、その数字の重さ

今回Uターンしたのは「複数」のタンカー。具体的な隻数は現時点で公表されていないが、ギリシャとインドという二カ国の船籍が同時に動きを止めたという事実は軽くない。ギリシャは世界最大のタンカー保有国の一つ。インドはイランからの石油輸入国でもある。立場の異なる両国の船が同じ判断をしたとすれば、それは個別の判断ではなく、業界全体のムードを反映しているとみるべきだろう。

石油トレーダーの間では「待機」という言葉が出ているという。航行するか否かを決めかねたまま、ペルシャ湾の中で漂っている状態——それが今のホルムズ海峡の実態だ。

この先どうなる

イランが海峡開放の姿勢を継続するかどうかは、政治的な綱渡りの上に成り立っている。トランプ政権との交渉の行方次第で、イランの対応が再び硬化する可能性は十分にある。保険会社がリスク判定を下げない限り、タンカーの動きは戻らない。そして保険会社が動くのは、海域の安全が数週間単位で証明されてからだ。

短期的には原油輸送の遅延と積荷コストの上昇が続くとみられる。原油価格への波及は今のところ限定的だが、Uターンするタンカーの数が増えれば話は変わってくる。「ホルムズ海峡は開いている」——その言葉が本当に意味を持つ日まで、タンカーはしばらく湾内をぐるぐるしているかもしれない。