レバノン停戦2024が発効した深夜、ベイルートの夜空に花火が上がった。ただ、その光が照らし出したのは祝祭の群衆だけじゃなかった——瓦礫になった住宅街と、戻る家を失った100万人分の空白でもあった。

100万人が動き出した朝、でも「帰る」とは言えなかった

停戦発効の翌朝、南部へ向かう道路には車の屋根にマットレスを積んだ家族や、バイクに荷物を山積みにした人たちが続々と現れた。BBC中東特派員のHugo Bachegaによれば、「笑顔の群衆がヒズボラの黄色い旗を振りながら歩き始めた」らしい。けれど現地の空気は手放しの喜びとは程遠かった。

6週間の戦闘でレバノン側の死者は2,100人を超え、人口のおよそ5人に1人——100万人以上が避難生活を強いられている。南部国境付近の村々にはイスラエル軍が依然駐留しており、ベイルート南郊のダヒエ地区では居住ビルの多くが瓦礫と化した。ウォーターフロントの即席テントで避難生活を続ける住民の一部は「戻るのが怖い」と語ったという。

「レバノン保健当局によれば、2,100人以上が死亡し、人口のおよそ5人に1人にあたる100万人以上が避難を余儀なくされており、深刻な人道的危機を生み出している。」(BBC News)

数字を並べると霞んでくるが、要するに「国のインフラと地域社会の土台ごと壊れた」という状況。マットレスを積んだ車が帰路につく光景は、復興の第一歩というより、まずは現地を確認しに行くだけ——そういう重さだった。

ヒズボラ武装解除、イスラエル撤退——10日間で何も決まらない理由

今回の停戦はあくまで「10日間」の期限付き。恒久和平への交渉は始まってすらいない。積み残された課題を並べると鮮明になる。

ひとつ目は、ヒズボラ武装解除の問題。国連安保理決議1701はレバノン南部での武装勢力の解除を定めているが、ヒズボラはこれを事実上無視し続けてきた経緯がある。イスラエル側が撤退の前提条件として突きつける可能性が高く、交渉のハードルは低くない。

ふたつ目は、イスラエル南部レバノン撤退のタイムライン。国境付近の村にはいまもイスラエル軍が駐留しており、住民が戻れない地区が点在したまま。「撤退する、でもいつ、どの条件で」という具体的な合意はまだ存在しない。

みっつ目がレバノン国軍の展開範囲。南部にどこまで展開できるか、そこにヒズボラとの境界線をどう引くかは、停戦後の安定を左右する核心だけど、これも交渉テーブルに乗っていない状態だった。

この先どうなる

10日間の時計は静かに刻んでいる。この期間中に恒久停戦の枠組みが合意できなければ、戦闘が再開される可能性は現実的にある。トランプ次期政権が仲介に乗り出したとも報じられているが、ヒズボラ武装解除とイスラエル南部レバノン撤退という二大課題は、どちらかが大きく譲らない限り動かない構造になっている。

帰路についた人たちが本当に「帰った」と言える日が来るのか——それはまだ、誰にもわからないままだ。