メアリー・デイリーが「道筋は不確か」と口にした瞬間、それはただの一言ではなくなった。世界の基軸金利を握るFRBの幹部が、政策の見通しを公式に見失ったと認めたのだから。引き金はイラン戦争、そして原油価格の急騰だった。

デイリー発言の何がそんなに重いのか

UCバークレーでの講演でメアリー・デイリーは、米経済の底堅さと消費者支出の持続を認めつつも、原油価格ショックがFRB金融政策の判断軸を揺さぶっていると踏み込んだ。「経済は悪くない、でも動けない」——そんな状況に追い込まれているらしい。

原油が上がれば、企業コストが膨らみ、物価が再び押し上げられる。コストプッシュ型のインフレというやつだ。だからといって利上げすれば、戦争リスクで萎縮しかけている需要をさらに冷やしかねない。利下げすれば今度はインフレが再燃する。どちらを選んでも傷を負う形になっている。

「イランとの戦争、そしてそれに伴う原油価格ショックが、FRBの政策の道筋を不透明にしている」(Bloomberg)

中央銀行が最も嫌うのは、インフレと景気後退が同時に来るスタグフレーションのシナリオだ。1970年代のオイルショック以来、封印してきたはずのその亡霊が、今また政策決定者の前に立ち現れつつある。

ドル・株・新興国、どこに跳ね返るか

Bloombergはデイリー発言を、ドル、株式市場、そして新興国市場すべてへの警告として報じた。FRBが迷っているという事実そのものが、リスク資産の値動きに直接影響してくる。

特に新興国は二重苦を抱える。原油高で輸入コストが跳ね上がる一方、FRBの政策が読めないドル高圧力にさらされやすい。FRB金融政策の不確実性が高まるほど、資金はリスクオフに動きやすくなるわけだ。

国内市場でも、消費者が今は「まだ使っている」としても、原油高→ガソリン代上昇→可処分所得圧迫、という経路はそう遠くない。デイリーが「底堅い」と表現した経済の体力が、いつまで持つかという問いでもある。

この先どうなる

当面の焦点は、原油価格がどこで落ち着くかと、イラン情勢がこれ以上エスカレートするかどうかの二点になりそうだ。ホルムズ海峡を巡る緊張が続く限り、FRBは利上げにも利下げにも踏み切りにくい「凍りついた政策」を余儀なくされる可能性がある。

次のFOMCまでに原油・地政学リスクがどう動くか——メアリー・デイリーが「不確か」と認めた道筋が少しでも見えてくるとすれば、そのタイミングだろう。今はまだ、霧の中を走っている状態だ。