アシム・ムニル陸軍元帥が、ワシントンとテヘランの間を単独で往復していた——ブルームバーグが2025年4月に伝えたこの話、最初は「まさか」と思った。核交渉の仲介役が外交官でも政治家でもなく、一人の軍人だというのだから。
パキスタンが持つ「900キロの説得力」
なぜムニル元帥なのか。地図を見ればすぐわかる。パキスタンはイランと約900キロの国境を接し、同じイスラム圏に属する。アメリカとの軍事協力関係も長く、両国と同時に顔が利くという希少な立ち位置にある。
パキスタン仲介外交の歴史を振り返ると、1970年代のニクソン訪中でも秘密ルートとして機能した実績がある。今回もその系譜上にある動きとみていい。ムニル元帥はその地政学的な重みを最大限に使い、双方の「顔を立てながら」接点を探ってきたらしい。
「アシム・ムニル陸軍元帥は、その交渉努力の中心に自らを位置づけている」(Bloomberg)
ここが引っかかった。「位置づけている」という能動的な表現。受け身の調停役ではなく、自ら主役に立とうとしている意志がにじむ。
軍人が動かす交渉——民主的プロセスはどこへ
米イラン核交渉の場にパキスタン軍トップが割り込む構図、冷静に考えると相当ひずんでいる。
イランの核・ミサイル能力は交渉中も開発が続いているとされ、イスラエルは強硬姿勢を崩していない。そこに民選でもない軍人が仲介者として入ることで、合意の正統性をどう担保するかという問題が残る。パキスタン国内でも、軍が外交を事実上握っている現状への批判は根強い。
軍人主導の仲介が「速さ」と「秘密保持」という強みを持つのは確かだ。ただ、合意に達したとして、それを国内で説明できる政治家が両国に存在するのかどうか——そこが最大のリスクじゃないかと感じる。
この先どうなる
ムニル元帥の動きが表に出た時点で、ある意味「仲介の賞味期限」は縮まったかもしれない。秘密外交は露見した瞬間に当事者が慎重になるからだ。
とはいえ、米イラン核交渉が公式チャンネルだけで動いていないのも事実。パキスタン仲介外交が水面下で機能し続けるなら、次の焦点はイスラエルの出方と、イランが「軍人との約束」をどこまで国内向けに正当化できるかになる。ムニル元帥の名前が再び表に出てくるタイミングが、交渉の山場を告げる合図になりそうだ。