IMFの成長予測が下方修正された。引き金を引いたのは、中東で続くイランとの戦争が引き起こした石油ショックだ。世界供給のおよそ20%が通過するホルムズ海峡がいま、経済的な断層線として浮かび上がっている。

ドンブロフスキス警告の中身——「景気後退」は最悪シナリオではなくなった

EU欧州委員会の元副委員長、ドンブロフスキス氏がBloombergの取材に答えた言葉は短く、重かった。

「紛争が長引き、エネルギーインフラが深刻な損傷を受けた場合、景気後退の可能性も選択肢の一つになる」

「可能性の一つ」という表現に、じつは情報量がある。IMFがリセッションを公式の想定シナリオに近い位置に置いたのは、リーマン・ショック後やコロナ禍の初期と同じ文脈だ。今回と違うのは、ショックの震源が市場ではなく地政学にある点で、政策対応が効きにくい。

ホルムズ海峡「20%封鎖」が家計に届くまでの経路

石油価格が上がると何が起きるか。輸送コストが上がる。輸送コストが上がると食料品が上がる。食料品が上がると、余裕のない新興国の財政が先に崩れる——という連鎖は教科書的に見えるが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻時に、世界はこれをリアルタイムで体験した経緯がある。

ホルムズ海峡を通過する原油は1日あたり約2100万バレルと推計されており、これが世界供給の約20%に相当する。同海峡はイランとオマーンの間に位置し、最狭部は約33キロ。軍事的な封鎖や機雷敷設があれば、迂回ルートの確保だけで数週間から数カ月かかりうる。価格はその前に動く。

ドンブロフスキス・イラン経済影響の試算が具体的な数字として出てくれば、市場はさらに反応するだろう。現時点ではIMFの正式発表待ちの段階だが、「下方修正」という言葉がすでに動いている。

この先どうなる

IMFは通常、年2回(4月・10月)の「世界経済見通し(WEO)」で数字を更新する。今回の下方修正がどの程度のものか、正式数値が出るタイミングに注目したい。現時点でわかっているのは、楽観シナリオが静かに後退しているということだ。

ホルムズ海峡の緊張が緩和に向かうか、さらに激化するか——それ次第で、IMFのシナリオは上にも下にも動きうる。家計に影響が届くのはガソリン代や電気代が上がり始めたときで、そのサインはすでに一部の市場で点滅しつつあるらしい。静かな戦場は、スーパーのレジの前にある。