IEA石油需要2026の予測が、2020年のパンデミック以来初めて年間マイナスに転じるとの発表が出た。「戦争で需要が消えた」——この一文の重さを、少し立ち止まって考えてみたい。

イラン戦争が引き起こした「価格の壁」——需要を消したのは爆弾じゃなかった

イランをめぐる中東紛争が激化するにつれ、原油市場には戦争リスクプレミアムが上乗せされていった。結果として原油価格は急騰。産油国が増産しているわけでも、パイプラインが止まったわけでもない。「高すぎて使えない」という価格そのものが、需要を削り取っていったらしい。

ガソリンが上がれば輸送コストも上がる。輸送コストが上がれば食品・日用品の価格も押し上げられる。その連鎖が家計を直撃し、企業の生産活動を抑制していく。戦場から遠く離れた国々でも、財布が戦争に引きずられる構図が今起きていること、ってわけだ。

「中東紛争による価格急騰が成長を消し去り、2020年のパンデミック以来初めて今年の世界石油需要が減少する見通しだと、国際エネルギー機関(IEA)が発表した。」(Bloomberg / IEA)

新興国へのダメージは特に深刻とみられる。エネルギー輸入依存度が高い国ほど、高騰した原油価格が貿易赤字を膨らませ、通貨安・インフレの二重苦に陥りやすい。イラン戦争原油価格の影響がグローバルサウスを直撃するシナリオは、もはや「最悪ケース」じゃなくなってきた。

脱炭素どころか「生き延びる」が優先——エネルギー政策が逆回転し始めた国々

皮肉なのは、IEAがもともと「需要のピークは近い」と予測していた機関だという点。再生可能エネルギーへの移行加速を訴えてきたIEAが、今回は「需要が落ちた」ではなく「価格高騰で需要が壊れた」という文脈で警告を出している。これは全然別の話だ。

脱炭素に向けたエネルギー転換投資は、安定した価格環境があってこそ進む。中東紛争エネルギー問題が長期化すれば、各国政府はEV補助金やグリーン投資より、今冬の光熱費対策に予算を回さざるを得なくなる。気候変動の議論が「生活コストの防衛」に吹き飛ばされていくパターン、過去にも見たことがある。

この先どうなる

IEAの今回の予測は、紛争が現状水準で推移した場合のシナリオを前提にしているとみられる。もしホルムズ海峡の通航が本格的に脅かされる事態になれば、原油価格のさらなる跳ね上がりと需要の一段の冷え込みが重なりかねない。逆に停戦・外交交渉が動けば、リスクプレミアムが剥落して価格が急反落し、今度は産油国の財政が揺らぐ。どちらに転んでも、「安定」のシナリオがもっとも遠い場所にある。イラン戦争原油価格の行方と、IEA石油需要2026の修正版がいつ出るか——そこが次の注目点になりそうだ。