HSBCのエルヘデリーCEOが「信頼が傷ついている」と口にした。世界屈指の資産規模を誇る銀行の最高責任者がそういう言葉を公の場で使うとき、それは単なる慎重発言じゃない。過去のパターンを調べると、金融機関トップが「信頼の損傷」に言及した後、市場は決まって荒れている。

エルヘデリーが明かした「顧客の変化」とは

エルヘデリーが今回語ったのは数字ではなく、肌感覚に近いものだった。顧客の信頼感が削られ始めており、投資家はますます不安定化する世界情勢を航行しつつある、という表現を選んでいる。

「中東の紛争と広範な不確実性が顧客の信頼感を損ない始めており、投資家はますます不安定化する世界情勢を航行しつつある」― HSBCホールディングス、ジョルジュ・エルヘデリーCEO(Bloomberg報道)

ここで引っかかったのは「航行しつつある」という言い回し。すでに荒波に入った、とは言っていない。でも、静かな海でもない。その絶妙なトーンが、むしろ不気味だった。

中東紛争 グローバル経済への影響という観点で見ると、震源地はホルムズ海峡だ。世界の原油輸送量の約2割が通過するこの海峡でリスクが高まれば、エネルギー価格の乱高下が企業の設備投資判断を直撃する。HSBCが強みとする貿易金融の分野で、案件が止まり始めると銀行収益にも跳ね返ってくる構図らしい。

「地政学ノイズ」では済まなくなった3つの理由

地政学リスク 投資家信頼という問題は、以前なら「一時的な雑音」として処理できた。けれど今回はそう割り切れない背景がある。

ひとつは紛争の長期化。短期決着の見通しが立たないまま、企業が意思決定を先送りし続けている。ふたつ目は連鎖リスク。中東の緊張が高まるたびに、サプライチェーンの見直し論が再燃し、コスト計算がリセットされる。そして三つ目が、今回エルヘデリーが指摘した「信頼の毀損」という心理的な側面。数字に出る前に、人の判断が変わり始めているということ。

HSBCはアジアと中東に収益基盤を持つ銀行だけに、この警告には実態が伴っていると見るべきだろう。

この先どうなる

中東情勢が短期的に落ち着く材料は、今のところ見当たらない。エルヘデリーの発言が今後、他の欧米系大手銀行CEOにも波及するようなら、市場のセンチメントはさらに慎重に傾いていく可能性がある。原油価格の動向と、HSBCが5月に発表する四半期決算の数字——この2点が、今回の警告が「予兆」だったかどうかを教えてくれるはずだ。とりあえず、見ておく価値はある。