2019年トランプ弾劾の記録を、法的手段で抹消できるか——そんな前代未聞の問いが、今ワシントンに投げかけられている。トランプはTruth Socialに「アランは最高の一人だ。彼がやるべきだ!」と投稿し、著名な刑事弁護士アラン・ダーショウィッツを使って弾劾記録の消去を追求する意向をにじませた。記録したのは議会。消そうとするのは行政。この組み合わせ、どう考えてもすんなりいく話じゃない。
ダーショウィッツとは何者か——トランプが「最高の一人」と呼ぶ弁護士
アラン・ダーショウィッツはハーバード大学ロースクールの名誉教授で、O・J・シンプソン裁判など世紀の難事件を手がけてきた刑事弁護の大物だ。2020年のトランプ第一次弾劾裁判でも弁護団に名を連ね、「弾劾の基準が満たされていない」と上院で堂々と論陣を張った経歴がある。今回もトランプ側が「法的な盾」として真っ先に思い浮かべた人物だったらしい。ただ、弾劾記録の抹消という案件は、過去の刑事弁護とは次元が違う。相手は裁判所ではなく、議会の歴史記録そのものだ。
「アランは最高の一人だ。彼がやるべきだ!」― Donald J. Trump(Truth Social)
トランプが弾劾された2019年当時、焦点となったのはウクライナへの軍事支援を政治取引に使ったとされる疑惑だった。下院は弾劾訴追を可決したものの、上院では共和党が多数を占め無罪評決。法的には決着がついているが、記録は残った。その記録が今も「汚点」として政治的に機能していることが、今回の動きの背景にあるとみられる。
議会記録は大統領令で消せるのか——憲法が「ノー」と言う理由
ここが一番引っかかった点だ。米国憲法の三権分立の設計上、議会の記録は行政府の権限の外にある。大統領令で国立公文書館に命じたとしても、議会自身の記録まで上書きできる法的根拠は存在しない。アラン・ダーショウィッツほどの知性がそれを知らないはずがなく、弾劾記録抹消に向けた法的戦略があるとすれば、相当に迂回路を使った議論になるはずだ。憲法学者の間では「可能性はほぼゼロ」という見方が大半だが、訴訟を起こすこと自体に政治的メッセージを乗せるトランプ流の戦術として読む向きもある。
この先どうなる
ダーショウィッツが実際に弾劾記録抹消に向けた法的手続きを起こせば、連邦裁判所は三権分立の観点から受理するかどうかの判断を迫られる。却下されれば「やはり無理だった」で終わるが、トランプ支持層への政治的メッセージとしては機能し続ける。一方、仮に何らかの形で司法が介入を認めるようなことがあれば、議会記録の独立性という民主主義の前提が崩れかねない。法的に勝てる見込みは薄くても、争い続けることで「2019年の弾劾は不当だった」という物語を強化する——それがこの一手の本当の狙いかもしれない。