トランプ弾劾抹消——こんな言葉が現実の法律論として浮上するとは、1年前なら誰も思わなかったはずだ。著名憲法学者アラン・ダーショウィッツが「2019年の第一次弾劾記録は抹消できる」とする論考を発表し、トランプ本人がTruth Socialでそれを拡散した。歴史上、弾劾の正式抹消が実現したことは一度もない。

ダーショウィッツが示した「抹消」の根拠とは

ダーショウィッツが論拠として持ち出しているのは、2019年ウクライナ疑惑捜査をめぐる新証拠の開示要求だ。捜査の前提となった情報に重大な瑕疵があったとすれば、弾劾手続き自体の正当性を遡って問い直せる——というロジックらしい。

ただ、法学者の間での評価は割れている。米憲法は弾劾を議会の専権事項と位置づけており、行政府や司法府が「記録を消す」ことを認める条文はどこにも見当たらない。ダーショウィッツ自身も過去のトランプ第一次弾劾審理で弁護側に立った人物で、中立的な第三者というよりは「弁護士としての立場」から論じている、と見たほうが正直なところじゃないか。

「爆弾的証拠の公開後、トランプは2019年の弾劾を抹消する動きに出る可能性がある」――ダーショウィッツ論考の要旨(Truth Social経由・トランプ再投稿より)

トランプがこの論考をそのままTruth Socialで拡散したという事実は、単なる「いいね」ではない。大統領経験者が特定の法的主張を公式アカウントで後押しすることは、支持層への「これを信じろ」というシグナルとして機能する。

2026年中間選挙への布石か、それとも本気の法的攻勢か

タイミングが興味深い。2026年中間選挙まで約1年という局面で、「弾劾は無効だった」という物語を広めることには政治的な実利がある。共和党支持層の結束を高め、民主党が主導した弾劾手続きをレガシーごと否定できるからだ。

一方で、仮にこの動きが法廷闘争に発展した場合、影響は選挙戦略にとどまらない。議会が持つ弾劾権限を司法や行政が事後的に覆せるという前例ができれば、憲法上の三権分立に深刻な亀裂が入りかねない。ダーショウィッツとトランプの2019年ウクライナ疑惑をめぐる動きは、そこまで射程に入れた話だという見方もある。

ただ現実問題として、連邦裁判所がこの種の「弾劾記録抹消」請求を受理するかどうか自体、かなり怪しい。訴訟適格(スタンディング)の壁で門前払いになる可能性が高いという指摘も法律家の間では出ている。

この先どうなる

注目点は二つ。一つは、ダーショウィッツの論考が正式な法的申し立てに発展するかどうか。もう一つは、新証拠として要求されているウクライナ疑惑関連文書が実際に開示されるか否かだ。文書が出れば論争は加速するし、出なければ「抹消論」は政治的な言説として消費されて終わる可能性が高い。2026年の中間選挙に向けてトランプ陣営がこのカードをどう使うか、しばらく目が離せない。