ペーテル・マジャールが権力を握る日が来れば、ブリュッセルが14年間待ち続けた扉がようやく開く——そう読む欧州外交官は少なくないらしい。ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は2010年から続く長期政権の中で、EU内の意思決定を繰り返し封じてきた。ウクライナへの軍事支援をめぐる拒否権行使、EU資金の凍結問題、司法独立性の侵食。ブリュッセルとブダペストの間に積み上がった「未解決リスト」は、いまや膨大な量になっている。
オルバンが14年で積み上げた「対EU障壁」の中身
オルバン政権がEUと衝突した局面を振り返ると、その一貫性に驚かされる。移民・難民の受け入れ拒否、司法改革を理由とした数十億ユーロ規模のEU基金凍結、そしてウクライナ支援パッケージへの繰り返しの拒否権。NATOの場でも、スウェーデンの加盟承認を最後まで渋ったのはハンガリーだった。
欧州委員会はこの間、「法の支配メカニズム」を発動してハンガリーへの資金拠出を止める強硬手段に出た。それでもオルバンは揺るがなかった——むしろ国内では「ブリュッセルの圧力に屈しない指導者」として支持を集める材料にしていた節さえある。
「ヴィクトル・オルバン首相は長年にわたり、特にここ数カ月は欧州連合を阻んできた。ペーテル・マジャールの当選は、その状況を変える可能性がある。」(ニューヨーク・タイムズ)
ただ、2024年欧州議会選挙でマジャール率いる「ティサ(TISZA)」が躍進し、オルバンの「フィデス」を猛追したあたりから流れが変わった。マジャール自身は元々オルバン陣営の内側にいた人物で、元妻が法相だったこともあり、政権の「内部告発者」的な説得力を持っている。そこが既存野党との違いで、オルバン支持層の一部にも刺さっているらしい。
マジャール政権が誕生した場合、最初に動くのはどこか
仮にマジャールがハンガリー政権を掌握した場合、最初に動くのはおそらくEU基金の凍結解除交渉だろう。現在ハンガリーには数十億ユーロ規模の結束基金が凍結されたままで、国内インフラや農業補助金に影響が出ている。政権交代があれば、欧州委員会との「法の支配」交渉を再起動し、段階的な解除に進む道筋が見えてくる。
NATO内の話でいえば、ハンガリーがウクライナへの通過輸送や情報共有で協力姿勢を見せるだけで、同盟内の空気はかなり変わる。オルバン政権崩壊というより「路線転換」だけでも、西側にとっては十分なシグナルになりうる。
問題は移行の速度、という点がどうにも引っかかる。選挙があるとしても2026年春が本命で、それまでオルバンが何をしかけてくるか。選挙制度そのものへの介入、メディア統制の強化、あるいは早期解散——手札はまだある。マジャールの支持率が上がれば上がるほど、オルバン側の動きも読めなくなってくる。
この先どうなる
次のハンガリー総選挙は2026年春が有力視されている。現時点の世論調査ではマジャール率いるティサとフィデスが接戦で、「政権交代が起きるかどうか」より「どこまで差が縮まるか」という問い方の方が実態に近いかもしれない。EUとしては、正式な政権交代を待たずとも、ハンガリー国内で政治的圧力が高まるだけで交渉カードは増える。凍結基金の部分解除を「餌」として使いながら、マジャール優勢の世論を後押しするシナリオも十分ありうる。オルバン14年の牙城が崩れるとしたら、一気にではなく、じわじわと——その方が欧州らしいやり方だろう。