ホルムズ海峡封鎖——その言葉が現実味を帯びるたびに、原油市場が騒ぐ。だが調べてみると、もっと静かで、もっと深刻な連鎖が見えてきた。世界人口の半数以上が毎日食べる「米」の収穫が、この海峡の開閉と直結しているらしい。
肥料も燃料も、同じ海峡を通っていた
米を育てるには窒素肥料が欠かせない。その原料は天然ガスで、中東産ガスの輸送ルートはホルムズ海峡を通る。農業機械を動かすディーゼルも同じルート。つまり封鎖が起きれば、農家は「植える手段」と「育てる栄養」を同時に断たれる格好になる。
2022年のウクライナ侵攻後、窒素肥料価格は一時3倍近くに跳ね上がった。あのとき東南アジアの農家が施肥量を削った結果、複数国でコメ収量が数パーセント単位で落ちている。あれは「ガスの産地が戦場になった」ケース。ホルムズ封鎖は「輸送路そのものが消える」ケースで、衝撃はより直接的になりうる。
「イランをめぐる戦争が、アジアの米の収穫を脅かしている。アジアの食卓、経済、そして政治にとって何を意味するのか。」(Bloomberg)
特に脆弱なのがバングラデシュ、フィリピン、インドネシアの3カ国。いずれも肥料輸入への依存度が高く、外貨準備に余裕がないため、価格急騰時に輸入量を維持できなくなるリスクがある。フィリピンでは2023年にも米価格の上昇が政治問題化した経緯があって、食料インフレと政治不安のセットはもはや「過去の話」じゃない。
バングラデシュ・フィリピン・インドネシアが最初に揺れる理由
アジア食料安全保障の文脈で語られがちなのは「中国とインドの生産量」だが、実は輸入依存の小国こそが震源になりやすい。肥料価格高騰で農家の収益が悪化すると、翌シーズンの作付け面積が減る。収量が落ちれば国内価格が上がり、補助金財政が膨らむ。それが通貨安を呼び、輸入コストをさらに押し上げる——負のスパイラルが回り始めると止めにくい。
2010年代に「アラブの春」の遠因の一つとされたのが食料価格の急騰だったことを思い出すと、この話は単なる農業ニュースじゃないってことがわかる。政権の安定や、場合によっては難民の流れにまで波及しうる話だ。
この先どうなる
現時点でホルムズ海峡は通航可能な状態にある。ただ、イランをめぐる軍事的緊張が高まるたびに、肥料メーカーや食品商社は在庫積み増しに動き、先物価格が先走りして上昇するパターンが繰り返されてきた。封鎖が「起きるかどうか」より「起きそうという空気だけで価格が動く」ことの方が、農家にとってはむしろタチが悪いかもしれない。アジア各国の食料安全保障政策が、中東情勢に正面から向き合わざるを得ない局面が近づいている。コメの値段と中東の地図——この二枚を同時に眺める習慣、そろそろ必要になってきた。