Kyle Bassが口にした数字が、静かに重い。ロシュフォール共同CEOでヘッジファンド投資家のバスは、ブルームバーグのインタビューで「イランの高濃縮ウランは濃縮度60〜83%に達している」と指摘した。核兵器に必要な水準は90%超——つまりあと一段階だ。

濃縮度83%という「あと一歩」の意味

核燃料として発電所で使われるウランの濃縮度は3〜5%程度。イランが保有するとされる60〜83%という数字は、その10倍以上の水準にある。

IAEAの査察報告でもイランの高濃縮ウラン備蓄量は段階的に増え続けており、バスの発言はそれを踏まえたものとみられる。兵器転用に必要なのは「量×濃縮度」——今のイランはその両方を積み上げてきた、ってことになる。

「イランは米国と誠実に交渉していない。米国はイランが核爆弾製造に使える高濃縮ウランを手放さない限り、交渉の場を去らないだろう」——Kyle Bass(Bloomberg)

この発言で注目すべきは「誠実に交渉していない」という部分だ。外交的な建前を脱ぎ捨てた物言いで、米国側の交渉姿勢が「合意文書」より「物質の物理的確保」にシフトしていることを示唆している。協定の文言ではなく、核物質そのものを押さえに行く——そういう局面に入ったらしい。

原油市場が神経質になる理由

イランは世界の石油輸送の約2割が通過するホルムズ海峡に面している。米イラン核交渉が決裂に向かうシナリオでは、海峡封鎖リスクが織り込まれ始め、原油先物が反応する構図はこれまでも繰り返されてきた。

バスは投資家でもある。地政学的リスクと資産価格の連動を日常的に計算している人物が「交渉テーブルを去らない」と断言したのは、単なる政治評論ではなくリスクシナリオとして語っているとも読める。ガソリン価格や光熱費という形で家計に届く話でもある。

この先どうなる

米イラン核交渉は現在、オマーンを仲介国とした間接協議の段階とされている。バスの発言通りに米国が「ウランの物理的引き渡し」を条件として固めるなら、イランが応じる可能性は低く、交渉は長期化か決裂かという二択に近づく。

一方でイラン国内でも経済制裁による疲弊は深刻で、ハメネイ師の強硬路線を国民全員が支持しているわけではない。バスが「誠実でない」と切り捨てた交渉姿勢が変わるとすれば、それは外圧よりもイラン国内の経済圧力から、というシナリオのほうが現実的かもしれない。しばらく目が離せない。