マレーシアEV規制が、静かに東南アジアの地図を塗り替え始めている。マレーシア政府が中国製電気自動車を事実上ターゲットにした輸入制限を導入したのは、もはや「検討段階」ではなく現実の話だ。ニューヨーク・タイムズが報じたこの動きは、ある意味でマレーシア政府自らが白旗を掲げた瞬間でもあった。
プロトン・ペロドゥアが直面した「価格の壁」
中国EV勢、特にBYDの東南アジアでの勢いは、ちょっとした数字を見ればわかる。2023〜2024年にかけてタイでのBYD販売台数は前年比で3倍近く跳ね上がり、マレーシアでも同様の傾向が確認されていた。対するプロトンやペロドゥアは、国民車メーカーとして長年マレーシア市場を支えてきた存在。ただ、補助金や関税で守られてきた彼らが、中国勢の圧倒的なコスト競争力の前では太刀打ちできないのが正直なところだ。
BYDのエントリーEVはマレーシア市場でも比較的手の届く価格帯で投入されてきており、ペロドゥアが得意とする小型・低価格帯と思いきりバッティングする。ここが引っかかった点で、マレーシア政府が動いたのは「自動車産業政策」というより「国民車の延命」という読み方のほうがしっくりくるかもしれない。
「この動きは、世界市場における中国の支配的地位と、その自動車メーカーが価格を低く抑える力を、暗黙のうちに認めたものだ」──The New York Times
この一文が刺さる。規制を「守り」として使うこと自体、すでに追い込まれているサインだったりする。
タイ・インドネシア・ベトナムも同じ崖っぷちにいる
マレーシアだけの問題じゃないのが、このニュースの厄介なところだ。中国電気自動車の東南アジア展開は、各国の自動車産業に同時進行で圧力をかけている。タイはすでにBYDの現地生産拠点を受け入れたが、それでも国内メーカーへの打撃は止まらない。インドネシアは希少資源のニッケルを武器に交渉カードを持っているものの、対中EV輸入の流れを完全に制御できているわけではない。ベトナムのVinFastは国産EVで対抗しようとしているが、コスト面での差は歴然としている。
BYD輸入制限という言葉こそ使わないにしても、各国が補助金・関税・ローカルコンテンツ規制を組み合わせた「見えない壁」を築こうとしているのは共通した流れだ。マレーシアが今回それを正面から打ち出した形になる。
この先どうなる
マレーシアがこの規制をどこまで維持できるかは、正直まだ読めない。WTO協定との整合性を問われるリスクもあるし、中国側が外交カードとして使う可能性もゼロじゃない。ただ、東南アジア各国が「中国EVとどう向き合うか」という踏み絵を迫られているのは確かで、マレーシアの選択は一つの先例になりそうだ。プロトンの親会社は実は中国の吉利汽車(ジーリー)だという皮肉な事実も踏まえると、この規制の行方は一筋縄ではいかない。引き続き注目しておく価値がある。