ペーテル・マジャルが選挙圧勝の翌朝に開いた3時間の記者会見で、世界が少し動いた気がした。「プーチンから電話があれば受ける。話せるなら、4年が過ぎた今こそ殺戮を止めてほしいと伝える」——その一言が、ブリュッセルとワシントンの外交筋を静かにざわつかせている。

オルバン16年を終わらせた男は、何者だったのか

もともとマジャルはオルバン政権の内側にいた人間だ。フィデス党の元側近として権力中枢を知り尽くし、その腐敗と縁故主義に嫌気が差して飛び出した、という経歴らしい。草の根運動から出発し、わずか数年でオルバン長期政権を終わらせた流れは、ポピュリズムに対するポピュリズムとも読めるし、単純にそう切り捨てるには惜しい複雑さもある。

会見でマジャルはすでに欧州10か国のリーダーと話を済ませたと明かした。ここが引っかかった。選挙翌日に10人というペース、これは単なる儀礼的な祝電の応酬ではなく、就任前から動いているということだ。ハンガリー政権交代がEUにとっていかに「待望の出来事」だったかを示すエピソードとして読んでいい。

「ウラジーミル・プーチンから電話があれば、私は取ります。そうはならないと思いますが、もし話す機会があれば、4年が経った今、どうか殺戮を止め、この戦争を終わらせてほしいとお願いします」

プーチンには自分から電話しない、という線引きも興味深い。完全拒絶でも全面接触でもない、絶妙な距離感。モスクワ側が「マジャルの勝利を尊重し、実用的な関係継続を期待する」と反応したのも、この余白を意識してのことだろう。

EU対ロ制裁を内側から揺さぶり続けた国が、方向を変える

オルバン政権の16年間、ハンガリーはEUの対ロシア制裁に繰り返しブレーキをかけてきた。エネルギー依存を盾に拒否権をちらつかせ、プーチンとの個人的関係を外交カードとして使い続けた構図は、EU内の「問題児」として定着していた感がある。

その国が方向を変えるとなれば、制裁の全会一致ルールが多少なりとも機能しやすくなる。ウクライナへの支援決定のたびにブリュッセルが頭を抱えてきた「ハンガリー問題」が一つ消えるわけで、影響は小さくない。もっとも、マジャルがどこまで親EU路線に舵を切るかは、就任後の行動を見てからでないと判断できないけれど。

トランプ大統領とJDバンス副大統領がオルバン支持を公言していたことも付け加えておく必要がある。バンスは先週、ハンガリーに2日間の選挙応援に入っていた。にもかかわらず結果はマジャルの圧勝。ワシントンの思惑が外れた格好で、米ハンガリー関係にも微妙な空気が漂い始めている。

この先どうなる

マジャルが正式に首相に就任すれば、EUの対ロ制裁協議は流れが変わりうる。ブリュッセルにとっては長年の懸案が解消に向かう可能性があり、ウクライナ支援の足並みも揃いやすくなるかもしれない。一方でモスクワは「実用的関係」という言葉を使いながら、マジャルの出方を静観している段階だ。プーチンが本当に電話してくるかどうか、それ自体がこの先の温度計になるんじゃないか。ハンガリー政権交代という一枚の変数が、停滞する和平交渉の地図をどう書き換えるか——まだ序章が終わったばかりだ。