スティーブン・ショークが静かに、しかし明確に言い切った。「数億バレルがすでに市場から消えている」と。Bloombergの番組に出演したSchork Group共同創業者の言葉は、一時的な原油価格の下落を「安堵」と受け取った市場参加者への冷水だったかもしれない。
停戦が来ても、消えた数億バレルは戻らない
イラン戦争が原油市場に与えた傷は、停戦交渉の進捗とは別の時間軸で動いている。精製施設の損傷、タンカー保険コストの高騰、そして航路の再設定——これらの修復には、外交合意よりはるかに長い時間がかかる。価格が下がったのは事実でも、それは供給が戻った証拠じゃない。むしろ、需要側がまだ本気を出していない段階での話だ。
「原油価格は下落したかもしれないが、イラン戦争によって数億バレルが市場から失われており、たとえ地域で停戦が成立しても、真の供給回復はまだ視野に入っていない」(Bloomberg、2026年4月11日)
ショークが特に強調したのは「夏」というタイミングだった。航空燃料、ガソリン、発電用燃料——需要が季節的に膨らむ局面と、供給不足が正面からぶつかる。原油需要急増の波が来たとき、バッファとなるはずの在庫も、市場心理も、すでに削られた状態で待ち受けることになる。
日本円建てで考えると、もっと怖い話になる
日本を含む原油輸入国にとって、この問題には為替という増幅装置がある。ドル建て原油価格が上昇すれば、円安局面ではそのダメージが二重になる。エネルギーコストの再上昇は、輸送費・製造コスト・光熱費を通じて物価全体を押し上げ、日銀の金利判断にも影響する。イラン戦争 供給喪失という遠い中東の話が、スーパーの値札や電気代の請求書に翻訳されて届く、そういう構造だ。
この先どうなる
ショークの見立てでは、この夏はボラティリティが高い状態が続くとみられる。停戦が成立しても、インフラ復旧・保険市場の正常化・航路の安定にはそれぞれ時間差がある。原油需要急増の季節的ピークが重なる6〜8月が、最も市場が揺れるウィンドウになりそうだ。価格が下がっているうちに「もう終わった」と思い込むのが、一番リスクの高い判断かもしれない。夏本番前に、エネルギーコストの動向を改めて確認しておく価値はある。