IMF春季会議2026が開幕した翌朝、財務相たちが前夜まで詰めていたシナリオはほぼ無意味になっていた。イランでの戦争が始まったからだ。ワシントンの会議場で想定されていた議題は貿易摩擦と成長率の下方修正。それが一夜で、世界経済危機への緊急対応へと変わった。
フリーランドが「戦後秩序の終わり」と呼んだ理由
カナダ元副首相兼財務相のクリスティア・フリーランドは、Bloombergの取材にこう語った。
「この瞬間が、第二次世界大戦以来世界を安定させてきた米国主導の国際秩序の終焉を示す可能性がある」
強い言葉だが、的外れとも言い切れない。イランをめぐる軍事衝突は、エネルギー市場と地政学の双方に同時に揺さぶりをかける。ホルムズ海峡は世界の原油輸送量のおよそ2割が通過するルートで、ここが不安定化すれば、インフレ再燃と景気後退という相反するリスクが中央銀行を同時に直撃する。利上げすれば景気が死に、利下げすればインフレが戻る。どちらに転んでも痛い局面だった。
原油・インフレ・景気後退が「同時多発」する構図
今回の事態が厄介なのは、リスクが一方向ではないところ。イラン関連のニュースが流れるたびに原油先物が動き、各国の中央銀行は政策判断の前提を随時書き換えなければならない状況に追い込まれている。IMFと世界銀行の春季会議は本来、各国が数カ月かけて準備した経済見通しを持ち寄る場だ。それが今年は、リアルタイムで事態が変わる中で「どう答えるか」を即興で議論する場になった。
クリスティア・フリーランドのような経験者がこのタイミングで「歴史的転換点」という表現を使うのは、単なる修辞ではないと思う。彼女はコロナ禍での財政出動、ロシアのウクライナ侵攻後の対ロ制裁調整を現職として経験した人物。その人物が「今回は違う」と言っている点は、調べれば調べるほど引っかかる。
この先どうなる
ホルムズ海峡情勢の推移次第で、原油価格は短期的に乱高下を繰り返すとみられる。IMF春季会議2026で示される世界経済見通しは、イラン戦争の着地点が不透明なまま公表される可能性が高く、「前提が崩れれば即座に修正」という異例の留保付き予測になりそうだ。各国中央銀行が次の会合でどう動くかも、ホルムズの動向と連動して読まなければならない。フリーランドが警告した「秩序の終わり」が修辞で終わるか、それとも現実になるか。その答えは、今後数週間の戦況と市場が先に出すことになる。