ハンガリー総選挙の前夜、ブダペストの英雄広場が人で埋め尽くされた。数万人が押し寄せたこのアンチ・フィデス集会——それが示すのは、単なる選挙戦の熱気ではなく、16年間蓄積されてきた怒りの噴出らしい。

マジャールとは何者か——元フィデス党インサイダーの反乱

ペーテル・マジャールはもともとオルバン体制の内側にいた人物だ。元妻がフィデス党政権の閣僚を務めており、マジャール自身もその利権構造に近い位置にいたとされる。それだけに、彼が体制を批判して飛び出したときのインパクトは大きかった。「内部告発者」的な立場が、既存野党への不信感を抱えていた有権者に刺さったというわけだ。

世論調査の大半でオルバンをリードし、マジャールは支持者にこう呼びかけた。

「私たちは3分の2の議席獲得という勝利の入口に立っている。最後の100メートルを全力で走ろう」

初めて投票権を持つ有権者のファニは、南部の村から2時間かけてブダペストまで来たという。「理想の状況なら彼に投票しないかもしれない。でも今は、これが唯一のチャンスだから」——この言葉には、熱狂というより切実さがにじんでいる。

オルバンへのトランプ支持表明が選挙戦をかき乱す

追い込まれたオルバン陣営に、強力な援護射撃が届いた。米副大統領JDバンスが2日間にわたるキャンペーン訪問を行い、さらにトランプ大統領が「米国の経済力を最大限に活用してハンガリー経済を強化する」と公開支持を表明したのだ。

ハンガリー国内の有権者にこの「米国カード」がどこまで響くかは未知数だが、EU・NATO内での位置づけを考えると話は複雑になる。オルバン政権はこれまでも欧州連合と軋轢を繰り返してきており、もし政権が続けばEUとの関係はさらに緊張するシナリオが現実的だ。逆にマジャールが政権を奪取した場合、ハンガリーのNATOおよびEUとの関係が大きく修正される可能性がある。

オルバン政権、ペーテル・マジャール、そしてトランプという三者が絡み合うこの構図——欧州民主主義の試金石と言われるゆえんがここにある。

この先どうなる

開票結果次第では、ハンガリー政治は2010年以来最大の転換点を迎える。マジャールが勝利した場合、EU補助金凍結問題の解消や司法の独立回復が焦点になるとみられ、欧州議会での親EU票の比重も変わってくる。一方でオルバンが逃げ切れば、「世論調査は外れた」という既成事実が積み上がり、独自路線をさらに強化する材料になりかねない。どちらに転んでも、ハンガリー総選挙の余波は国境を越えそうだ。