フランス解散総選挙の宣言が出た翌朝、パリの政界関係者が最初に確認したのは世論調査ではなく、過去の「失敗した賭け」の一覧だったらしい。2024年欧州議会選挙でマクロン与党の得票率はルペン率いる国民連合の半分以下。その数字が出た翌日、マクロンは議会解散と総選挙の即時実施を宣言した。

得票率33%——国民連合が突きつけた「倍返し」の数字

今回の欧州議会選挙、国民連合の得票率33%というのはただの選挙結果じゃない。フランス第五共和制が積み上げてきた「中道が極端を抑え込む」という暗黙の政治ルールへの、有権者からの公開状みたいなものだ。

マクロンの読みはこうらしい。総選挙という「本番」に引き込めば、左右の有権者が「極右政権阻止」のために中道に集まる。二極化を逆手に取って、求心力を取り戻せる——というロジックだ。確かに数字の上では一理ある。フランスの決選投票制度は、第1回投票で3割を取った政党が決選でひっくり返される歴史が何度もある。

「エマニュエル・マクロンはフランス議会を解散し、電撃的な総選挙を呼びかけた。欧州議会選挙で自党が大敗を喫した後、直接選挙によって急伸する極右勢力を封じ込められると賭けに出た。」(Financial Times)

ただ、調べてみると似たような「賭け」が成功した例は意外と少ない。サッチャーは1990年の党内反乱で退場し、安倍晋三は2007年の参院選大敗後に退陣した。「有権者に二択を迫れば中道が勝つ」という前提は、時代によってあっさり裏切られる。

マクロンが負けると、EUの財布が壊れる

フランス国内の権力闘争だけで終わらないのがこの選挙のやっかいなところだ。ドイツはすでに経済停滞で財政出動の余力が細り、イタリアは慢性的な財政赤字でEUと綱引き中。その状況でフランスにマクロン・ルペン以外の不安定政権が生まれると、EU共同債の議論や防衛費分担のテーブルが一気に止まりかねない。

マクロン・ルペン(国民連合)の対立は、EUの統治能力そのものへの問いでもある。ルペンがフランスの首相ポジションに近づけば、NATOへのコミットや対ロシア制裁の継続にも波紋が広がる可能性がある。今の欧州にその余裕があるかどうか、正直なところ怪しい。

この先どうなる

第1回投票は宣言から数週間以内に設定される見通しで、決選投票まで含めれば夏前にフランスの政治地図が確定する。焦点は左派連合がどこまで票を一本化できるか、そしてマクロン支持層の「消極的中道票」が逃げないかどうか。国民連合が第1党になれば「コアビタシオン(保革共存)」——マクロン大統領とルペン系首相が並立する異例の政治状況になる。それがどれだけ機能不全を起こすか、ヨーロッパ全体が固唾を飲んでいる状況だ。マクロンの賭けの答えが出るまで、あと数週間。