Mike Pyle(ブラックロック・ポートフォリオ管理グループ副責任者)が、「一時的」という言葉を一度も使わなかった——それだけで今回の発言の重さは伝わるんじゃないか。2026年4月11日、ブルームバーグの番組「Masters in Business」に登場したパイルは、イラン戦争がエネルギー安全保障に与える影響を「持続的な経済ショック(durable economic shocks)」と表現した。一過性の価格急騰とは、明らかに別の話だ。

ホルムズ海峡——世界の原油20%が通るこの「細道」が今、交渉カードになっている

ホルムズ海峡を経由する原油は、世界の海上輸送量の約20%にのぼる。ペルシャ湾岸産油国からアジア・欧州へ向かうタンカーが通るこの水道が封鎖、あるいは通行不能に近い状態になれば、影響は即日・即時・全世界に波及する。パイルが懸念しているのはまさにここで、単発の供給ショックではなく、「供給不安定が常態化するシナリオ」だという。イラン戦争 エネルギー安全保障という組み合わせが、今や機関投資家レベルでリスクシナリオに織り込まれ始めたのは、こういう背景があってのことらしい。

「イランとの戦争がエネルギー安全保障を含む持続的な経済ショックをもたらす可能性について議論した」(Bloomberg、2026年4月11日)

パイルはバイデン政権で国家安全保障副補佐官(国際経済担当)を務めた人物でもある。金融と安全保障、両方の「現場」を知るキャリアを持つ人間が、資産ボラティリティの長期化を正面から語った——ここに今回の発言の異様さがある。「インフレは落ち着く」「中東リスクは織り込み済み」という市場の前提が、静かに崩されつつある気がしてならない。

なぜ「恒久的ショック」という言葉がこれほど重いのか

ホルムズ海峡 原油ボラティリティという組み合わせは、2022年のロシア・ウクライナ戦争時のガス危機と構造が似ている。あのとき欧州は「一時的」と言い続けて、結果的にエネルギー政策の全面転換を余儀なくされた。今回パイルが「一時的」を避けたのは、同じ轍を踏まないための言葉の選択だったのかもしれない。機関投資家がボラティリティを「長期化するもの」として資産配分に反映し始めれば、株式・債券・コモディティにまたがる連鎖が起きる。それが今、静かに進行中だという見立てだ。

この先どうなる

イラン情勢が外交解決に向かうか、軍事的エスカレーションが続くかで、シナリオは大きく二分される。楽観シナリオでは、原油価格の高止まりは数カ月で落ち着き、インフレへの影響も限定的にとどまる。一方、ホルムズ海峡での実力行使や長期封鎖に至った場合、パイルが指摘する「恒久的ショック」が現実味を帯びてくる。市場が今注目すべきは原油の日次価格より、湾岸のタンカー通行量と保険料率の動向だろう。そっちのほうが、何かが起きる前に動くから。