リチャード・ハースが発した言葉は短く、重かった。「この戦争は、イランがいかに大きな交渉力を持っているかを示している――私たちはあまり期待すべきではない」。元米外交評議会(CFR)会長で、現在はセンタービュー・パートナーズに籍を置くハース氏がブルームバーグのインタビューでそう語ったのは2026年4月10日のこと。米国がイランとの核合意交渉を再開しようとしているタイミングで、この発言は関係者に冷水を浴びせる形になった。
ホルムズ海峡という「切り札」をイランは手に入れた
調べてみると、ハース氏の見立てには具体的な根拠がある。一連の戦闘を経て、イランはホルムズ海峡の制海権を事実上の取引材料として手中に収めたとされる。この海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過するルートで、ここを封鎖されれば国際エネルギー市場への影響は即座に出る。戦前であれば「脅し」の域を出なかったカードが、戦後は現実的な圧力として機能しうる状況になっている。
さらにイランは核施設の温存にも成功したとみられており、交渉テーブルに並べる「牌」の数自体が増えた。米国が求める「制限的な核合意」に対し、イランが以前より強硬な条件を提示してくる可能性は高い。ハース氏が指摘するのはまさにこの非対称性で、戦争の結果として生まれた構造的な力の移動は、交渉の入り口から米国の選択肢を狭めるという読み方だ。
「この戦争は、イランがいかに大きな交渉力を持っているかを示している……私たちはあまり期待すべきではない」(リチャード・ハース、ブルームバーグ、2026年4月10日)
ホルムズ海峡制海権を実質的な担保に持つ相手と向き合う交渉は、テクニカルな外交の話だけでは済まなくなってくる。
「期待しすぎるな」の裏にある米国の焦り
米国側がそれでも交渉を急ぐ背景には、国内のエネルギー価格や同盟国との調整圧力があるとみられる。ただ、ハース氏の警告が効いているとすれば、交渉チームは「合意のための合意」を避けるよう慎重になるはずだ。イラン交渉力がここまで高まった状態での拙速な妥協は、中長期的に米国の信頼性を傷つけるリスクもある。外交の世界では「悪い合意は合意なしより悪い」という格言がある。ハース氏の発言はその文脈で読むと、さらに重みを増す。
この先どうなる
米イラン交渉が正式に再開された場合、最初の難関はイランの「前提条件」をどこまで受け入れるかだろう。ホルムズ海峡を巡る緊張が続く限り、イランは時間を味方につけて粘る戦術が使える。一方、米国内では中間選挙を見据えた政治的圧力もかかりやすい時期に差し掛かっている。ハース氏のような重鎮が公開の場で「期待するな」と言い切った事実は、交渉の落としどころを探る米側にとって、外交的なハードルをむしろ上げる効果をもたらすかもしれない。合意が遠のくほど、ホルムズ海峡というカードの価値は上がり続ける――そのジレンマが、この交渉の本当の難しさだろう。