チャゴス諸島の返還交渉が、トランプの一言で止まった。ニューヨーク・タイムズが報じたのは、英国政府がモーリシャスへの主権移譲合意を事実上凍結したという話だ。交渉に費やした時間と外交資本が、ワシントンからの圧力でほぼ無効化された格好になっている。

トランプが「愚かな行為」と言った瞬間、英国は止まった

チャゴス諸島といっても、ピンとこない人も多いかもしれない。インド洋のほぼど真ん中に浮かぶ島嶼群で、その中のディエゴガルシア島に米英共同軍事基地がある。対中国・対テロ双方の文脈で、この基地の戦略的な重みはずっと語られてきた。

英国はかつてこの地域を植民地支配し、1960〜70年代に住民を強制退去させた歴史を持つ。その後モーリシャスとの間で主権返還交渉が続いてきたわけだが、昨年ついた「合意」の芽がここで折れたらしい。

「米英共同軍事基地を擁するチャゴス諸島をモーリシャスに正式返還する計画を、トランプ大統領は『極めて愚かな行為』と呼んだ。」(ニューヨーク・タイムズ)

強い言葉だったのは確かで、英国側が即座に後退したのも事実だ。「同盟国の意向を尊重した」という外交的な言い訳はできるが、要するにワシントンに押し切られた、という見方が広まっている。

英国モーリシャス返還交渉、どこで歯車が狂ったのか

交渉が進んでいた背景には、英国側の植民地責任への意識と、モーリシャスの粘り強い国際的ロビー活動があった。国連の勧告でも「英国はチャゴスの主権を返還すべき」という立場が示されており、返還交渉それ自体に国際法上の根拠はあった。

ただ、問題はタイミングと地政学だった。中国がインド洋への海洋進出を加速させているこの時期に、西側の重要拠点を「手放す」ことへの警戒感はワシントンで相当根強かったようだ。英国がモーリシャスへ主権を移せば、その後の基地運用をめぐる条件交渉でどんな変数が生まれるか——米側はその不確実性を嫌ったと見るのが自然じゃないか。

ディエゴガルシア米英軍事基地は、中東・アジアへの爆撃機の出撃拠点としても機能してきた。「単なる島の返還」では済まない話が、そこにはある。

この先どうなる

英国政府は「凍結」と表現しているが、これが「廃棄」になるかどうかはまだ見えない。モーリシャス側は当然、反発している。国際社会の視線もある。英国としては、トランプ政権との関係維持と、植民地責任への対応という二つの要請の間でしばらく身動きが取りにくい状況が続きそうだ。

次の焦点は、英米間でこの問題が正式にどう扱われるかだろう。トランプが「愚か」と言い放った案件を英国が再び前に進めるには、相当の政治的な決断がいる。チャゴス諸島の問題は、インド洋の地図の上だけじゃなく、英米同盟の実力関係を映す鏡になりつつある。