イラン核交渉が、かつてないほど複雑な局面に入っている。ニューヨーク・タイムズが伝えたのは、一方の当事者が要求を変え続け、もう一方が一ミリも動かないという、交渉として最も危うい形だった。

トランプが「変え続けた」間、イランが死守した3つの条件

報道によれば、トランプ政権の対イラン要求は協議を重ねるたびに変容してきたという。核開発の完全廃棄を求める強硬路線から、部分的な合意を模索する方向へ——と揺れてきた。

それに対してイラン側が一貫して崩さなかったのが、①核濃縮主権の保持、②制裁の即時解除、③体制転換の否定、この三本柱だったらしい。

「トランプ大統領の戦争目標が刻一刻と変化する一方、イランは確固たる要求を堅持してきた。焦点は、イランが和平交渉で妥協するかどうかだ。」(The New York Times)

ここで引っかかるのが、この非対称な構図だ。一方が「要求を変え続ける」ほど柔軟に動き、もう一方が「一切変えない」という状況では、交渉が前進しているように見えて、実際には膠着している——という読み方が自然になってくる。

妥協できない理由は「経済」じゃなくて「国内政治」だった

イランが強硬姿勢を崩せない背景には、経済だけじゃない事情がある。制裁長期化による経済疲弊は確かに深刻で、選択肢は狭まっている。だが、仮に妥協すれば、それは国内強硬派に「敗北」として可視化される。そのリスクが、経済的な苦しさよりも重く政権の意思決定にのしかかっているようだ。

テヘランにとって、交渉テーブルで首を縦に振ることは、外交的解決ではなく政治的な死に見えかねない——そういう構造になっているらしい。

一方のトランプ政権も、中間層向けの「ディール成功」という国内向けの物語が必要で、双方が「勝利」を演出しなければならない苦しい立場に置かれている。

この交渉の余波が直撃するのが、ホルムズ海峡だ。世界の原油輸送の約20%が通過するこの海峡が揺れれば、エネルギー市場への影響は局所的な話では済まなくなる。トランプ中東政策の行方が、日本を含む世界の消費者物価にまで連鎖する可能性を、マーケットはすでに織り込みはじめている。

この先どうなる

次の焦点は、イランが「体制維持の保証」を得られる形の落としどころを、アメリカ側が提示できるかどうかだろう。現時点では、その枠組みが見えていない。交渉が決裂すれば軍事的緊張が再燃し、ホルムズ海峡リスクが一気に上昇するシナリオも十分ありうる。逆に、双方が「勝ったように見える」玉虫色の合意に滑り込む可能性も排除できない。イラン核交渉の次のターニングポイントは、数週間以内に訪れるかもしれない。ただ、どちらに転んでも「決着」とは呼べない結末になりそうな気もする。