ネオジム磁石の世界市場で、ひとつの「スタートライン」が引かれた。USA Rare Earthが2025年4月、商業出荷を開始すると報じられた——そう聞いて「ついに来たか」と思う人もいれば、「また計画倒れじゃないの」と身構える人もいるだろう。ただ今回は、工場が実際に動き始めるという点で、これまでの「検討中」とは話が違う。
EVもミサイルも動かす「小さな磁石」に中国が握る90%
ネオジム磁石がどれだけ日常に食い込んでいるか、改めて整理しておきたい。電気自動車のモーター、風力発電のタービン、ハードディスク、そして精密誘導ミサイル——これらすべてに使われている。目に見えないが、現代のインフラを文字通り動かしている部品だ。
そしてその製造を、中国が世界シェアの約90%で押さえている。採掘から精製、磁石加工まで一貫したサプライチェーンを数十年かけて築いてきた結果で、米国をはじめ西側諸国が「依存しすぎた」と気づいたのは、コロナ禍でサプライチェーンが次々と機能不全に陥ってからだった。
USA Rare Earth参入で何が変わり、何が変わらないか
USA Rare Earthの工場稼働は、レアアース脱中国を目指す米国内の数少ない民間プロジェクトのひとつだ。Bloombergの報道によれば、
「USA Rare Earthは4月から磁石の商業出荷を開始する。これは米国の重要な産業部品における中国依存を抑制することを目的とした、少数のプロジェクトに加わるものだ。」
「少数のプロジェクトに加わる」という表現が引っかかった。つまり、この会社だけが孤軍奮闘しているわけではないが、米国全体でもまだ「少数」の段階にとどまっているということでもある。
冷静に数字で考えると、中国が持つサプライチェーンを代替するには、採掘・精製・加工の各段階で莫大な設備投資が必要だ。業界の試算では、完全な国内代替には数十年単位の時間軸が必要とも言われている。今回の稼働は「始まり」であって「解決」ではない。
それでも「計画」が「稼働」に変わったこと自体は小さくない。米国内でネオジム磁石が商業ベースで生産される実績が積み上がれば、投資家の信頼を引き寄せ、次の工場建設への呼び水になる可能性もある。
この先どうなる
USA Rare Earthの出荷開始は、米国のレアアース戦略が「政策文書の中の目標」から「現場の出荷伝票」へと降りてきた瞬間と言えそうだ。ただし、中国が築いた90%支配を崩すには、一社の工場では到底足りない。今後の焦点は、政府補助の継続性、同様の工場が次々と立ち上がるかどうか、そして中国側が対抗措置として輸出規制を強化するかどうかにある。レアアース脱中国の道のりは、少なくともあと10〜20年は続くレースだ——今日はその第一コーナーを曲がったところ、というのが正直なところじゃないだろうか。