NATO分裂の兆候が、ここにきて一気に顕在化した。フィナンシャル・タイムズの報道によれば、複数の欧州NATO加盟国が、米軍によるイランへの軍事作戦に自国領土を使わせることを明確に断ったという。断った国がひとつではなく「複数」というのが、ちょっと引っかかるところだ。

欧州が基地使用を拒否した、3つの理由

なぜ欧州各国は拒んだのか。表向きの外交辞令を剥がすと、理由はおおよそ三つに絞られる。

ひとつは報復リスク。イランは過去に、軍事行動の「共犯者」と見なした国の資産や拠点を攻撃対象にしてきた経緯がある。自国の基地が発射台になれば、次の標的は自分たちだという計算が働くのは当然だった。

ふたつ目はエネルギー。欧州各国はロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー調達の多角化を急いできた。その一環としてホルムズ海峡経由の中東産油への依存度は依然高く、海峡が封鎖や交戦で機能不全に陥れば、エネルギー価格の再高騰は避けられない。

三つ目が国内政治。ウクライナ支援疲れが漂う欧州の有権者に、「また別の戦争に加担した」と受け取られるリスクを、各国政府は極度に嫌がっている。選挙を控えた国では特に、その傾向が強い。

「複数のNATO加盟国が、米国によるイランへの作戦拠点としての自国基地使用を拒否しており、ワシントンが欧州パートナーに支援を求める中、同盟内に重大な亀裂が生じている。」(フィナンシャル・タイムズ)

この一文が静かに重い。「重大な亀裂」という表現をFTが使うのは、かなり珍しいケースだ。

「第5条の傘」は今もあるのか——集団防衛の空洞化

NATOの根幹は第5条、つまり「一国への攻撃は全加盟国への攻撃」という集団防衛の約束だ。だがこれはあくまで防衛規定であって、米国が主導する攻撃的な作戦への参加義務は定めていない。欧州各国が「拒否できる」と判断した法的根拠はそこにある。

問題はそこから先で、米国側が「協力しないなら米軍の欧州駐留を縮小する」という圧力カードを切ってくる可能性が出てくること。トランプ政権下でその脅しは現実味を帯びており、欧州基地使用拒否はそのまま「NATO集団安全保障の再交渉」という地雷原に直結しかねない。

イラン核問題と欧州の安全保障が、こんな形でリンクするとは——という感じで、事態は予想外の方向に転がりつつある。

この先どうなる

短期的には外交チャンネルでの火消しが続くだろうが、米欧の亀裂は「イランへの対応方針の違い」というより、「NATO加盟国がどこまで米国の軍事行動に付き合うのか」という根本問題として残る。欧州基地使用拒否が前例になれば、次の危機でも同じことが繰り返される可能性がある。NATOが「共同行動の枠組み」として機能し続けるか、それとも「各国が自国利益で動く緩やかな集合体」に変質するか——その分岐点に、今いるらしい。