米国債市場——31兆ドルが動く場所で、今週ひとつの異変が起きていた。米国とイランの間に休戦が成立したにもかかわらず、債券トレーダーたちは防御を固め始めたらしい。CPIの発表が迫るなか、楽観論はほぼ見当たらなかった。

「休戦」の翌朝、なぜ国債は売られたのか

通常、地政学リスクが後退すれば安全資産である米国債には買いが入る。今回はそうならなかった。理由を掘り下げると、焦点がすでに別の場所に移っていたことが分かる。

イランとの緊張緩和でエネルギー価格の急騰リスクは一時的に遠のいた。ただ、それ以前から高止まりしていた物価の勢いがすんなり止まるわけじゃない。サプライチェーンの修復には時間がかかるし、エネルギーコストの残熱は数カ月単位でCPIに影響を及ぼし続ける。市場参加者が警戒していたのは、まさにその「タイムラグ」だったようだ。

「31兆ドル規模の米国債市場の投資家たちは、米国とイランの間に脆弱な休戦が成立するなか、消費者物価に関する注目の報告発表を前に、国債のさらなる損失に備えたヘッジを進めている」(Bloomberg)

「脆弱な休戦」という言葉の選び方が引っかかった。外交的な合意が成立しても、それを「脆弱」と形容するのは、市場がその持続性を信じていないからだろう。休戦が崩れれば、エネルギー価格は再び跳ね上がる。崩れなくても、インフレ圧力は残る。どちらに転んでも債券には逆風という構図だった。

CPIが予想を上回ると何が起きるか——FRBと金利の綱引き

消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回れば、FRBの利下げシナリオは後退する。これは国債の価格下落、つまり利回り上昇を意味する。投資家たちがヘッジを積んだのは、その可能性を排除できなかったからだ。

面白いのは、今回のヘッジの動きが「売り確信」ではなく「不確実性への保険」に近い点だった。強気の売りポジションというより、想定外のCPI上振れに備えた守りの姿勢。それだけ、今の市場が読みにくいということかもしれない。

米イラン休戦という地政学的なニュースが、最終的には「これでFRBが動きやすくなるか、それとも逆か」という問いに変換されて債券市場に着地している。外交と金融政策がこれほど直結して意識される局面は、ここ数年でもそう多くなかった。

この先どうなる

CPIの数字が出た瞬間、31兆ドルの市場はいずれかの方向へ振れる。予想通りか下振れならヘッジ解消の買い戻しが入り、国債価格は持ち直す展開もある。上振れなら、今積み上げたポジションが正解だったと証明される格好になるだろう。

米イランの休戦がどれほど持続するかも引き続き変数だ。仮に情勢が再び悪化すれば、エネルギー価格の上昇を通じてインフレ期待が再燃し、消費者物価指数(CPI)の次の発表にも影響が波及してくる。外交のカレンダーと経済指標の発表スケジュールが、奇妙に絡み合ったまましばらく続きそうだ。