ヨルダン川西岸入植者暴力が、また一人の命を奪った。2025年、ヨルダン川西岸北部のテイアシル村。28歳のアラー・ハリド・スベイフさんは、自分のビニールハウスに踏み込んできた入植者たちを前にして、逃げなかった。その夜のうちに銃弾を受け、死亡が確認された。
「村で一番穏やかな男だった」——親族が語った最後の夜
スベイフさんの従兄弟、サエブ・スベイフさんはBBCの取材にこう話した。
「アラーは村で最も優れた若者のひとりだった。穏やかで、礼儀正しく、誰ともトラブルを起こしたことがない人間だ。それが入植者たちに『処刑』された」
サエブさんによると、その日の入植者グループはイスラエル軍の護衛つきで村に入り込んできた。アラーさんは農業用のビニールハウスを守ろうとして、その場に残った。BBCおよび国連高官の報告では、射殺したのは非番のイスラエル兵とされている。一方、イスラエル軍は「投石行為があった」として射撃を正当化する立場をとっている。
射殺と同じ日に「数十の新規入植地」を承認——偶然ではない数字
ここが引っかかった。スベイフさんが撃たれたまさにその日、イスラエル政府は新たな入植地の大規模承認を進めたと報じられている。国際法上、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地はすべて違法だ。それでも入植地は膨張を続け、今回の承認で「数十か所」が新たに加わった。
テイアシル村はパレスチナ自治政府が治安管理を担うはずの地域に位置している。だが実態はちがう。先月も、CNNの取材クルーが同村周辺での暴力を報じようとしてイスラエル兵に拘束された。軍は後に「クルーの行動がIDF(イスラエル国防軍)の基準に反していた」と釈明したが、詳細は曖昧なままだ。
イスラエル国内でも、元安全保障幹部たちが「政府が後押しするユダヤ人テロリズムが暴走している」と公式に警告を発した。テイアシル村での射殺事件は、そうした警告が現実になった一例として、国際社会の目に映っている。イスラエル入植地国際法違反の問題は、すでに法的論争の段階を超えつつあるといえる。
この先どうなる
国際社会からの批判は高まっているが、イスラエル政府が入植地拡大の方針を転換する兆しは今のところ見えない。テイアシル村射殺事件をめぐっては、国連やBBCが独自調査を継続中とみられ、イスラエル軍による「投石」の主張を裏付ける証拠が公開されるかどうかが次の焦点になる。元安全保障幹部らの警告が政治的圧力になるかどうかも注目点だが、選挙サイクルや連立政権の構造を考えると、短期での政策転換は厳しいんじゃないかという見方が現地メディアでも広がっている。一方でヨルダン川西岸入植者暴力に関する国際刑事裁判所(ICC)の動向次第では、局面が変わる可能性もゼロではない。