米消費者センチメントが、ついに過去最低水準を割り込んだ。Bloombergが報じたその数字の裏に、イラン情勢をめぐる軍事的緊張と、それが燃料となって燃え広がるインフレへの深い不安があった。食料品や光熱費の上昇は統計の話じゃなく、毎週のスーパーのレシートに刻まれる現実だ。
GDPの70%を動かす「気分」が崩れた
米国経済の約70%は個人消費で成り立っている。つまり、消費者が財布を閉じると決めたとき、経済全体がその決断を食らう構図になっている。過去のデータを調べると、消費者センチメントの急落が景気後退の6〜12カ月前に起きていたケースは珍しくない。2008年のリーマン前も、2001年の同時多発テロ後も、同じパターンが見えた。
今回の下落がやっかいなのは、「物価が上がるかもしれない」という予測不安が先に走っている点だ。実際にインフレが加速していなくても、人々が加速すると信じれば消費は萎縮する。期待インフレが現実を先回りする、厄介なループが始まりつつある。
「米消費者マインドは直近数週間で過去最低水準まで低下し、イラン戦争に起因するインフレ加速への懸念が高まっていることが示された。」(Bloomberg)
イラン戦争 インフレという組み合わせが市場に与える影響は、単純なエネルギー価格の上昇にとどまらない。原油高は物流コストを押し上げ、食品価格に波及し、住居費にも間接的に絡んでくる。中東の緊張が長期化するほど、そのコストは広く薄く家計全体へ染み込んでいく。
株価は戻っても、レジの前では別の話が進んでいた
興味深いのは、株式市場が一時的な楽観で上昇する局面があっても、消費者心理は回復しなかった点だ。ウォール街と台所の体感温度は、今やかなりの乖離がある。株を保有している層にとっての「景気回復」と、毎日のガス代や食費を気にしている層にとっての「物価高」は、同じ時間軸の上で全く別の経験として進行している。
米国の景気後退リスクを論じるとき、消費者センチメントの悪化はその最前線にある信号だと思っていい。企業業績より先に、家計の気分が変わる。そして家計が動かなくなると、企業業績はあとからついてくる。順番がある。
この先どうなる
イラン情勢が短期間で落ち着く見通しは、今のところ薄い。軍事的緊張が続くかぎり、エネルギー価格の上振れリスクは消えず、インフレ再燃への警戒も市場から剥がれない。FRBが利下げに踏み切るタイミングは一段と見えにくくなった、というのが大方の見方だ。米国の景気後退リスクが現実の話として語られる頻度は、今後も増えていくんじゃないか。消費者センチメントの次の発表数値、静かに要注目といっていい。