インドのロシア原油輸入が、ここ2か月で目に見えて跳ね上がっている。世界第3位の原油輸入国が買い増しに動いた背景を追うと、二つの変化がほぼ同時に重なっていた。
制裁の「歯」が抜け始めた2025年春
一つ目の変化は、トランプ政権の姿勢だった。ロシア産原油を購入する第三国への二次制裁について、米政権は事実上の棚上げ姿勢を見せ始めているらしい。インドの製油業者にとって、これは長らく頭上に吊るされていた刃が遠のいた感覚に近い。買えるなら安い方を買う。商業的には至極まっとうな判断だ。
二つ目は中東リスクの再燃。イスラエルとイランの緊張が高まるなか、ホルムズ海峡経由の中東産油国からの安定供給に不透明感が漂い始めた。調達先を分散させたいインドにとって、割安なロシア産原油はそもそも魅力的な選択肢だった。それが今、リスクヘッジとしても機能するわけで、爆買いに踏み切る理由は二重になっている。
「インドの製油業者はここ2か月でロシア産原油を大量購入しており、中東の供給難と米国による制裁の脅威が薄れるなか、今年残りの期間も現在の高水準での購入を続ける見込みだ」(Bloomberg)
1バレル60ドル上限、もう誰も守っていないんじゃないか
G7が2022年末に導入した「1バレル60ドル」の価格上限制裁は、ロシアの石油収入を絞り込むことでウクライナへの戦費を削ぐ狙いがあった。ところが運用の実態を調べると、すでに抜け穴だらけだったことがわかる。中国・インド・トルコが非公式ルートも含めてロシア産原油を買い続け、「影の船団」と呼ばれる無保険タンカーが制裁をすり抜けてきた経緯がある。
そこへ今回、制裁そのものの実効性に対して米政権が距離を置き始めた。欧米が積み上げてきた圧力の枠組みは、同盟国の外交努力より米国の政策転換によってあっさり崩れる可能性がある、ということが改めて可視化された格好だ。中東供給危機への備えという文脈も加わり、インドにとって「ロシアから買う」ことへの心理的ハードルはほぼ消えつつあるといっていい。
この先どうなる
インドの動向は、他の新興国への「お墨付き」になりかねない。南アフリカ、トルコ、東南アジア諸国が同様の判断をしやすい環境が整いつつある。制裁の形骸化が続けば、ロシアの原油収入は下支えされ、ウクライナ戦費への圧力は一段と弱まる。年末にかけてインドの輸入量が高水準を維持するかどうかは、原油価格上限制裁が名実ともに機能しているかを測るリトマス試験紙になる。数字が出てくる頃には、議論の前提が変わっているかもしれない。