米国債利回りが跳ね上がった日、市場が静かに手放したのは「今年中に利下げがある」という前提だった。引き金を引いたのはイランとの軍事衝突——戦費とエネルギーコストの上昇がインフレ再燃への懸念を呼び起こし、FRBが動けない構図が改めて浮かび上がってきた格好らしい。

戦費がインフレを動かす、この連鎖の速さ

ウォール街で利回りが上昇に転じたのは取引の早い段階だった。背景を追うと、軍事支出の拡大とエネルギー供給への不安が重なって物価押し上げ圧力を生んでいる。ガソリン代や光熱費という形で家計にじわじわ効いてくるやつだ。

問題は「一時的か」「長引くか」という点。FRBにとってインフレ高止まりは利下げの封印を意味する。今年1回の利下げを織り込んでいた市場参加者にとって、これは計算が根本からずれることになる。

「米国のイランとの戦争に起因するインフレ加速と、さらなるエスカレーションの見通しを受け、米国債は下落した。これにより、連邦準備制度が今年1回の利下げを行うとの観測が後退した。」(Bloomberg)

住宅ローンの固定金利、企業の設備投資向け融資、あらゆる借り入れコストが高い水準に張り付いたまま年後半を迎える可能性——その現実が、債券市場の動きに滲み出ていた。FRB利下げ期待後退が数字に表れた瞬間だったといえる。

「中東リスク=原油だけ」では収まらなくなった

以前なら中東の地政学リスクといえば原油価格の話で9割片付いた。ところが今回は違う流れがある。戦費という財政支出が直接インフレ圧力になり、それがFRBの手を縛り、金融市場全体の金利水準を押し上げる——という経路が機能しているらしい。

中東インフレ波及の影響が、原油市場を飛び越えて債券・株・為替まで波及するシナリオを市場は「あり得ない話」ではなく「メインシナリオの一つ」として扱い始めた印象がある。

この先どうなる

焦点はFRBが次の会合でどんなシグナルを出すか、それに尽きる。インフレ指標が続けて強い数字を出せば、利下げ期待はさらに後退し、米国債利回りは上値を試す展開になりやすい。エスカレーションが収束に向かえばエネルギーコストが落ち着き、FRBにとって動ける余地が生まれるかもしれない——が、今のところそのシナリオは後ろに回っている。高金利の長期化が続くなら、住宅市場と中小企業融資への締め付けが今夏にかけて顕在化してくる可能性がある。中東の動向から目が離せない状況はしばらく続きそうだ。