米イラン停戦交渉がパキスタンで始まった、と聞いて「ようやく和平か」と思ったら、現地の空気は相当ちがう。BBCのジェレミー・ボーエン国際編集長が現場から伝えているのは、「両国に戦争を止めたい強い動機がある」という唯一の好材料と、それをほぼ打ち消す「信頼の完全な欠如」という現実だった。
トランプ15項目案、なぜ「降伏文書」と呼ばれるのか
パキスタン仲介外交の最大の障壁として浮上しているのが、トランプ政権が用意した15項目の和平案だ。正式には一切公開されていない。にもかかわらず、リークされた内容がイラン側の強い反発を招いている。
「トランプは15項目の計画を持っているが、未公開のままだ。リークされた内容は、交渉の土台というよりも降伏文書に近いと受け取られている。」(BBC, Jeremy Bowen)
交渉のテーブルに着く前から、一方が「これは条件提示ではなく屈服の要求だ」と感じている。そこに共通の地盤が生まれる余地は、今のところ見当たらない。パキスタンの仲介者たちは双方の代表団のあいだを行き来する役回りだが、「難しい仕事を引き受けた」というのがBBCの評価だった。
チャールズ国王、習近平、中間選挙——トランプが戦争を終わらせたい3つの理由
面白いのはトランプ側の事情だ。すでに戦争を「過去形」で語り始め、「勝利宣言」まで出している。だが国内カレンダーがそれを急かしている。今月後半にはチャールズ英国王の国賓訪問、5月には習近平との首脳会談、11月には中間選挙。加えてアメリカの夏休みシーズンが迫り、戦争前の水準にガソリン価格を戻したいという切実な経済的動機もある。王室の訪問も、外交の山場も、選挙も、戦争とは相性が悪い。
イラン側も余裕があるわけじゃない。ミサイルとドローンを発射する能力は残っているし、SNS上ではトランプを揶揄するAI動画を垂れ流している。ただ主要都市の経済は事実上止まっており、体制の立て直しには時間が必要な状況だ。ベイルートではイスラエルの空爆が続いており、中東の地図はこの瞬間にも書き換えられている。
この先どうなる
パキスタン仲介外交が実を結ぶには、15項目案の内容が大幅に修正されるか、イランが「降伏」という言葉を飲み込めるだけの見返りを得るか、どちらかが必要になってくる。トランプの国内スケジュールは6月以降に本格的に詰まる。時間的プレッシャーはむしろ米国側が大きく、それがイランの交渉カードになる可能性もある。停戦が近いのか、交渉決裂が先なのか——パキスタン発の次の一報を待ちたい。