リライアンス・インダストリーズが燃料制限に踏み切ったのは、2026年4月9日のことだった。インド最大の民間企業が全国のガソリンスタンドで設けた上限は、1回の給油につきわずか約1,600円(11ドル)。暫定停戦が成立したとされる中東情勢にもかかわらず、燃料の棚がじわじわと薄くなっていく——そんな現場の声が各地から上がり始めている。
給油「1,600円まで」が意味する数字の重さ
11ドルでどれだけ走れるか。日本のガソリン価格帯で考えれば、乗用車なら満タンの3分の1にも満たない量だ。インドのトラックや農業機械に換算すれば、さらに心もとない。農村部では灌漑ポンプや脱穀機が止まりかねないし、医療機関の自家発電機も例外じゃない。
Bloombergはこの措置を「供給の逼迫が暫定停戦にもかかわらず続く中」での対応と報じた。
リライアンス・インダストリーズは、中東危機による供給の逼迫が暫定停戦にもかかわらず続く中、全国の小売拠点でガソリン・軽油の購入上限を1回につき約11ドル(約1,600円)に制限した。(Bloomberg、2026年4月9日)
ホルムズ海峡を経由する物流は、表向きの停戦後も「正常」とは言い難い状態が続いているらしい。タンカーの保険料が跳ね上がり、船会社が迂回ルートを選んだり、寄港スケジュールを先送りにしたりしているという話も聞こえてくる。
原油の85%を海外に頼る国が配給制に踏み込んだとき
インドは原油消費量の約85%を輸入に依存している。中東からのルートが滞ると、代替調達先を即座に確保するのは難しい。ロシア産原油の割安調達はここ数年で定着したが、それが中東分の穴を完全に埋めるかどうか、今はまだ見えていない。
インド原油供給危機という言葉が現実味を帯びてきたのは、今回が初めてではないにしても、民間最大手が「配給」に相当する措置を取ったのは異例だと言える。政府系の石油公社ではなく、リライアンスが動いた点が妙に引っかかった。政府が公式に「危機宣言」を避けたまま、企業側が先に動いた形になっているからだ。
トラック輸送が滞れば食料品の流通が細り、農業機械が止まれば収穫期の損失が積み上がる。連鎖の絵図は描きやすい——だが、どのコマが最初に倒れるかは、現時点でわからない。
この先どうなる
ホルムズ海峡の物流が本格的に正常化するタイムラインは、まだ霧の中だ。インド政府が戦略石油備蓄の放出に踏み切るのか、あるいはリライアンス以外のスタンドにも同様の制限が広がるのか、次の一手を読む材料が揃っていない。
今回の1,600円上限が「応急処置」で終わるなら、数週間後には静かに撤廃されるだろう。ただ、ホルムズ海峡の物流正常化が長引くようなら、この措置は「序章」として記憶されることになるかもしれない。インド原油供給危機の行方は、中東の地政学リスクと直結している——しばらくは目が離せない状況が続きそうだ。