ブラジルのレアアース国有化が、ついに立法プロセスに入った。世界第2位のレアアース埋蔵量を持ちながら、これまで開発も輸出も民間任せで放置してきた南米の資源大国が、国営企業の設立に向けた法案を議会に提出したとBloombergが2026年4月10日に報じた。タイミングは偶然じゃない。世界が今、中国への依存を本気で断ち切ろうとしている真っ只中だ。
中国が握る70%——ブラジルはなぜ今まで動かなかったのか
現状を整理しておくと、レアアースの世界供給の約70%は中国が握っている。EVバッテリー、半導体、ミサイルの誘導システムにいたるまで、現代の産業インフラはこの17種類の元素なしには動かない。米欧がそのほぼすべてを中国から調達しているという事実は、有事のリスクとして長年指摘されてきた。
では、なぜブラジルは動かなかったのか。埋蔵量は世界2位とされているのに、採掘・精製の設備投資が進まず、輸出体制も未整備のままだった。理由はいくつかあるが、民間企業だけに任せておくと採算ラインが合わず、開発が先送りされ続けるというパターンに陥っていたらしい。今回の法案はその構図を、国家が直接介入することで打開しようとするものだ。
「ブラジルの議員らが、レアアースに特化した国営企業の設立を目的とした法案を提出した」(Bloomberg、2026年4月10日)
資源の武器化という言葉が、ここ数年で一気にリアルになってきた。中国がレアアース輸出に制限をかけると示唆するたびに、米欧の株式市場が反応する。ブラジルの動きは、その不安に対する一つの回答として読み取れる。
法案が通れば、米欧のサプライチェーンに何が変わるか
仮にこの法案が成立した場合、インパクトはどのくらいのものになるのか。まず、国営企業という形を取ることで、政府間の資源協定が結びやすくなる。民間企業同士の商談とは違い、国家が前面に出ることで、米欧が求める「信頼できる供給元」としての位置づけが明確になる。
中国依存脱却を掲げる米国のインフレ削減法(IRA)や、欧州の重要原材料法(CRMA)は、調達先の多様化を企業や政府に求めている。ブラジルが国営企業を持てば、それらの政策との連携がぐっと現実的になる。サプライチェーン再編という言葉が、絵空事ではなくなってくる局面だ。
ただし、法案提出と実際の稼働の間には、まだ相当の距離がある。採掘・精製インフラの整備には時間とコストがかかり、環境規制の問題も絡んでくる。「国有化を決めた」と「動き始めた」は別の話、というのが資源開発の現実でもある。
この先どうなる
法案が議会を通過するかどうかは、ブラジル国内の政治力学にもよる。資源ナショナリズムへの支持と、外資導入を優先したい経済界の綱引きが続くとみられ、成立までには紆余曲折があるだろう。
一方で、仮に法案が否決されたとしても、この動き自体がブラジルの資源戦略に対する国際的な注目を集めた点は変わらない。米欧の政府や企業がブラジルに秋波を送る動きは、法案の行方と関係なく加速しそうだ。中国の市場支配力に構造的な亀裂が入るかどうかは、もう少し先の話になるが、そのシナリオが現実の選択肢として浮上してきたこと自体、数年前には考えにくかった変化といえる。