ハンガリー総選挙まで、あと数日。14年間一度も本格的な敗北を知らなかったオルバン首相が、今回ばかりは崖っぷちに立たされているらしい。火をつけたのは選挙の専門家でも野党の大物でもなく、かつてオルバン陣営の内側にいた男だった。

バラトン湖に何が起きたか——側近利権の実態

ハンガリー最大の湖、バラトン。かつては誰もが夏休みを過ごした国民的な避暑地で、週末になれば家族連れで賑わっていた場所だ。ところが調べていくと、その湖畔に異変が起きていた。

「バラトン湖はかつて誰もが愛した避暑地だった。今や高級不動産開発がオルバン首相の側近たちに食い物にされ、地元住民の怒りは限界に達している。」(The New York Times)

公共の資産だったはずの湖畔が、オルバン首相の側近人脈と結びついた高級リゾート開発に次々と塗り替えられていった。地元住民が「昔と全然違う」と感じても不思議じゃない話で、これがオルバン汚職への怒りの象徴として機能するようになっていった。

ペーテル・マジャルという男——元インサイダーが変えた選挙戦

対抗馬として台頭してきたのがペーテル・マジャル。もとはオルバン政権に近い立場にいた人物だが、内部を知っているからこそ暴露できる情報を持っていた。汚職の実態を次々と公表し、従来の野党では届かなかった層の心を動かしていったのが引っかかるところで、「外の批判者」より「元身内の告発者」のほうが世論への刺さり方が違う。

ハンガリーはかつてEU内でも改革の優等生と見られていた時期がある。それが今や欧州議会からも民主主義後退の筆頭として批判を受ける立場になっているわけで、この変容には20年もかかっていない。ポピュリズムが選挙を通じて制度を少しずつ書き換えていくと何が起きるか、ハンガリーはその実験場になってしまった感がある。

この先どうなる

もしオルバンが今回の総選挙で敗北すれば、欧州各国で権威主義路線を歩む政治家たちへの警戒信号になりうる。それは選挙制度が機能しているという証明でもあるし、一方でオルバンが勝てば「14年の基盤は選挙では崩せなかった」という別の現実を突きつけることになる。ペーテル・マジャルが今後もハンガリー政治の中心に残るのか、それとも一時的な台風の目で終わるのか——選挙後の動向のほうが、実は本番かもしれない。