バラクリシュナンが静かに、しかし明確に市場へ突きつけた言葉がある——「投資家はまだ最悪を値付けしていない」。シンガポール外務大臣ヴィヴィアン・バラクリシュナンが、ブルームバーグ主催のIMAC投資カンファレンスで語ったこの一言は、地政学リスクを「織り込み済み」として市場が慢心している現状への、静かな反論だった。

ホルムズ海峡が止まれば、世界の原油20%が消える

ホルムズ海峡の経済影響を数字で見ると、その重さが実感できる。世界の原油供給のおよそ20%がこの海峡を通過している。サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート——中東の主要産油国の輸出経路が、幅わずか約33キロメートルの水道に依存しているわけだ。

封鎖が長期化したケースのシミュレーションは複数の機関が試算しているが、原油価格が短期間で1バレル150ドルを超えるシナリオも現実的な選択肢として挙がっている。エネルギーコストの急騰は、運輸・食品・製造業のサプライチェーン全体をなだれ式に直撃する。新興国の外貨準備が先に底をつく、というシナリオが一番シビアじゃないかとも感じた。

「市場はまだ最悪を織り込んでいない」——この発言が重い理由

「シンガポール外務大臣ヴィヴィアン・バラクリシュナンは、イランでの戦争による経済的打撃はさらに悪化する可能性があり、市場はまだ最悪のシナリオを織り込んでいないと警告した。」(Bloomberg、2026年4月10日)

この発言が重いのは、話した人物のポジションにある。シンガポールはASEANの中でも際立って金融・貿易への依存度が高く、地政学リスクに対して常に敏感でいなければならない立場の国だ。その外務大臣が「市場は甘い」と言った——これは単なる政治的コメントじゃなく、実態を知っている側からの警告に近い。

イラン戦争の原油市場への影響は、足元の価格だけ見ていると見誤る。現在の原油先物市場がある程度の地政学プレミアムを乗せているのは確かだが、バラクリシュナンの指摘はその「乗せ方が足りない」という点にある。先進国の消費者から東南アジアの輸入国まで、エネルギー価格の波は等しく押し寄せる。

この先どうなる

イラン情勢が現状のまま長期化するシナリオ、停戦交渉が動くシナリオ、そしてホルムズ海峡が物理的に封鎖されるシナリオ——三つの分岐点が同時に存在している状況だ。市場が「最悪」を本格的に織り込み始めると、リスク回避の動きは株式・新興国通貨・コモディティを横断して一気に広がる可能性がある。バラクリシュナンの警告が現実になるかどうか、次の判断材料はイランをめぐる外交交渉の行方と、ホルムズ海峡周辺の軍事的緊張度合い。原油市場の動きは、その体温計として今後も注視する価値がある。