米イラン和平交渉の場に、イラン代表団がついに姿を現した。世界の原油流通量の約20%が通過するホルムズ海峡を揺さぶってきた緊張が、交渉テーブルという新しい局面に移り込んだ瞬間だった。ただし、「交渉が始まった」と「合意に達した」は全く別の話だ。
ヴァンス副大統領がパキスタンへ飛んだ、そのタイミング
ホワイトハウスの切り札として動き続けてきたヴァンス米副大統領が、今度はパキスタンへと向かった。イランとの直接協議が始まったまさにその瞬間に、トップ外交官がその場を離れる。これを「別の外交圧力をかける多面展開」と読む専門家もいれば、「交渉チームへの委任」と見る向きもある。どちらが正解かは、この先数日の動きが教えてくれるだろう。
「ヴァンス副大統領が会談のためパキスタンへ向かう中、停戦の持続性と双方が長期合意に達せられるかについて、依然として大きな不確実性が残っている。」(ニューヨーク・タイムズ)
NYTがわざわざ「依然として大きな不確実性」と書いたのは、交渉開幕を素直に好材料として扱う気がなかったからじゃないか。停戦は宣言された時点が最も脆い、というのが過去の中東外交が繰り返してきたパターンでもある。
原油100ドル超シナリオ、ゴールドマンが試算した条件
ホルムズ海峡停戦が崩れた場合にゴールドマン・サックスが試算してきたのが、原油1バレル100ドル超えのシナリオだった。海峡を通じてタンカーが毎日運ぶ原油は世界需要の約5分の1。封鎖が長引けば、欧州・アジア双方のエネルギーコストが直撃される。この交渉が決裂すれば、その数字が絵空事ではなくなってくる。ヴァンス副大統領パキスタン訪問が「核問題を含めた地域の大きな取引」を狙ったものだとすれば、イランへの間接圧力としても機能しうる。ホルムズ海峡停戦をめぐる交渉は、原油市場というもう一人のプレーヤーを常に意識しながら進んでいく。
この先どうなる
焦点は二つ。一つは、今回の協議が「停戦の延長」にとどまるのか、それとも核問題や地域覇権まで含めた「包括合意の枠組み」へと発展するのか。もう一つは、ヴァンス副大統領のパキスタン訪問が地域全体の外交構図をどう塗り替えるか。NYTが「長期合意は依然不透明」と書いた以上、楽観は早い。米イラン和平交渉が次のヤマ場を迎えるのは、双方の代表団が初回の協議を終えて帰国する、その数時間後かもしれない。