IMF財政余力の枯渇——これが今、世界経済が直面しているリスクの核心らしい。米国とイランが2週間の停戦に合意したことで、ひとまず緊張は和らいだように見える。ただIMFはそこに「解決」という言葉を使っていない。むしろブルームバーグの報道が伝えるのは、停戦後も構造的な脆弱性が消えていないという、かなり重い話だった。

コロナ+ウクライナで「次の一手」が消えた

ここが引っかかった点なのだが、今回のIMF警告は原油価格そのものより、各国政府が「打てる手を持っていない」という事態を問題視している。

コロナ禍では各国が前例のない規模で財政出動した。ワクチン、給付金、企業支援——それだけで多くの国の財政赤字は膨張した。さらにウクライナ戦争後のエネルギー危機では、補助金や価格上限といった追加の支出が重なった。その結果、仮に今また原油が急騰しても、補助金を出せる政府はごく一部に限られる状況になっている。

かつてリーマンショック後の回復を支えたのは、各国が財政を一斉に拡張できたからだった。そのバッファーが今はない、というのがIMFの見立てだ。

「国際通貨基金は、中東紛争が主要な供給ショックであり、米国とイランが2週間の停戦を交渉した今もなお、財政出動の余地が限られた世界の回復力を試すことになると述べた。」(Bloomberg、2026年4月9日)

「回復力を試す」という表現が、妙に静かで怖い。

スタグフレーションが家計を直撃する経路

エネルギーコストが上がると何が起きるか。企業はコストを製品価格に転嫁しようとする。物価が上がる。一方、政府が補助金を出せなければ消費者は値上がりをそのまま受け取るしかない。消費が落ちれば景気も鈍化する。

物価上昇と低成長が同時に走る——これがスタグフレーションリスクと呼ばれる状態で、中央銀行にとって最も対応が難しいシナリオでもある。金利を上げれば景気がさらに冷え、下げれば物価がさらに上がる。どちらに動いても痛みが出る。

中東原油供給ショックが長引けば、この板挟みが現実になる可能性がある。特に日本のように、エネルギーの多くを輸入に頼る国ではその影響が直接的だ。円安が重なれば輸入コストの上昇はさらに増幅される。

この先どうなる

2週間の停戦が延長されるか、あるいは再び緊張が高まるか——中東情勢の行方が当面の焦点になる。ただIMFが示したのは、「停戦が続いても問題が消えるわけではない」という視点だった。財政余力が回復するには時間がかかる。次のショックが来るまでに各国がどれだけ余裕を取り戻せるか、という競争が静かに始まっているとも言える。原油市場の動きだけでなく、各国の財政運営と中央銀行の判断を、これから数週間は注視したほうがよさそうだ。