海底ケーブル破壊工作の疑いを持たれるロシア潜水艦3隻が、英国近海に姿を現していた。英国防相ジョン・ヒーリーがその事実を公式に認め、欧州の金融・エネルギーインフラを支える海底パイプラインとケーブルへの情報収集活動だったと述べた。銃声も着弾もない。だが、もし実行されれば銀行取引が止まり、電力網が揺らぎ、NATOの指揮系統にも影響が及ぶシナリオだ。

ヒーリー国防相が名指しした「中東という目くらまし」

ヒーリー国防相の発言で引っかかったのは、潜水艦の動向そのものより、その「タイミング論」だった。

「プーチンは我々に中東へと目を向けさせたいのだろう」——ジョン・ヒーリー英国防相

イスラエルとイランをめぐる緊張が高まるなか、世界の注目が中東に集中している今こそ、北大西洋の深部で静かに動く好機——そう読んでいるというわけだ。ロシア潜水艦北大西洋での活動が活発化しているとは以前から指摘されてきたが、英国が公式にここまで踏み込んで認定したのは異例といえる。

切られたら何が止まるか、数字で見ると怖い

欧州と北米を結ぶ海底ケーブルは現在400本超。国際的な金融取引の95%以上がこのルートを通るとされている。エネルギーパイプラインと組み合わせれば、切断1本で生じる経済的損失は数日で数兆円規模に達するとの試算もある。

2022年のノルドストリーム爆発以来、ハイブリッド戦争インフラ攻撃は「理論」から「現実の選択肢」に格上げされた感がある。今回の潜水艦3隻が実際に何を記録し、何を本国に送ったのか、英国側はまだ明かしていない。

NATO各国の海軍は水中ドローンや音響センサーによる海底監視網の強化を急いでいるが、深海3000メートルの泥の底は広大で、監視コストは膨大だ。「戦場の静けさ」がそのまま「安全」を意味しない局面に入っている。

この先どうなる

英国の公式認定は同盟国への警戒要請という意味合いが強く、外交的な対抗措置というより「NATOに共有情報として認識させる」ための動きとみるのが自然だろう。次の焦点は、他のNATO加盟国が同様の潜水艦活動を自国近海で確認しているかどうかの情報共有になる。フィンランドやノルウェー近海のケーブル監視体制の強化、そして米海軍の北大西洋プレゼンス増強が次の一手として取り沙汰されそうだ。ロシア側はいつものように関与を否定するだろうが、英国が「証拠あり」として踏み込んだ以上、NATO内の議論は静まらない。深海の緊張が水面に出てきたのは、これが最後じゃないかもしれない。