ホルムズ海峡の通行料が、仮想通貨で支払われる日が来るかもしれない。米・イラン停戦協議が続くさなか、テヘランがBloombergのインタビューでそんな構想を示唆した。単なる決済手段の話じゃなく、これは米国主導の金融制裁を根本から迂回しようとする動きだ。

世界の原油20%が通過する海峡で、ドルを締め出す

ホルムズ海峡は、サウジアラビア・イラク・UAE・クウェートといった主要産油国の原油が太平洋・インド洋方面へ流れ出る唯一の出口。1日あたり約1700万バレル——世界の海上原油輸送量のほぼ5分の1——がここを通る。イランはこの地形的な優位を交渉カードとしてずっと握ってきた。

今回の構想はその一歩先を行く。通行料をデジタル通貨建てで徴収すれば、SWIFT(国際銀行間通信協会)のドル決済網を完全に外れたキャッシュフローが生まれる。制裁はドルの流れを止めることで機能するわけだから、ドルが介在しない取引ルートを制度化することは、制裁の効き目を根本から薄めることになりかねない。

「テヘランは、世界の石油の約5分の1が通過する要衝・ホルムズ海峡を航行する船舶への通行料システムに、デジタル通貨による支払いを組み込むべきだとのシグナルを発した。」(Bloomberg)

調べていくと引っかかるのが、この構想の「実行可能性」よりも「意図の鮮明さ」だ。技術的にはステーブルコインや中国発のデジタル人民幣(e-CNY)を使えば不可能ではない。イランはすでに2019年頃から暗号資産を使ったエネルギー取引の実験を続けており、ノウハウの蓄積もある。

「制裁を形骸化させる道具」として暗号資産を使う国家、初めてじゃない

北朝鮮やロシアがすでに制裁回避の手段として暗号資産を活用してきた事実は、各国の安保機関が繰り返し報告してきた。ただイランの今回の動きが異なるのは、「国家インフラ」に組み込もうとしているスケール感だ。特定の取引を隠すのではなく、通行料という公的な徴収システムそのものをドル圏の外に置こうとしている。イラン 仮想通貨 制裁回避の話はこれまでも出てきたが、ここまで制度化を視野に入れた動きは前例がないらしい。

専門家の間では「暗号資産 地政学」の文脈でこの問題を捉える声が増えている。誰がグローバル決済のルールを書くのか、という問いが現実の海峡で試されようとしている。

この先どうなる

米・イラン協議が妥結するかどうかが、まず最初の分岐点。停戦が成立すれば制裁の一部緩和が焦点になるが、仮想通貨通行料の構想がテーブルに乗ったままだと、米側の交渉姿勢は一気に硬化する可能性がある。逆に協議が決裂すれば、イランがこの構想を「実装の方向」へ加速させる動機が強まる。中国やロシアがどこまで技術・外交面でバックアップするかも見どころで、e-CNYの国際展開を進めたい北京にとってはむしろ追い風になる文脈だ。ホルムズ海峡の通行料問題は、今後の停戦交渉を占うリトマス試験紙になりそうだ。